2010年3月22日月曜日

Gメンにアーメン

万引き・・・窃盗の一種であり、営業時間中の商店小売店デパートスーパーマーケットコンビニエンスストア書店)等において、販売目的として展示・陳列してある商品(商品見本を含む)および展示・陳列のための備品等を、店側の目を盗んで窃取するものを言う。(Wikipediaより抜粋)

許しがたい行為である。こんなことをする奴は、世の中から間引いてしまいたいくらいだ!

と偉そうに思う今の俺がいる。

だが、俺も万引き経験がある。今でも胸が痛み、慙愧に耐えない。

俺の万引きは、友達との万引き遊戯の一種のような悪質なものであった。本当に欲しいものがあって盗んだのではなく、「俺はこんなに盗んだぜ!」といった武勇伝気取りの万引きであった。

若気の至りでは済まされない、何とも心滅入る過去の悪行である。

中学の時に万引きをしていた級友の1人は、ずっとその悪癖が抜けきらず、10年前に死んだ。風の噂なのだが、黒社会の良くないモノに手を染めて、変死したという。

「賽銭箱にお詫びの手紙と3万円」というニュースがあった。何でも、過去に賽銭泥棒をして、その償いとして、10年後に利子を付けて賽銭箱に手紙と共に入れた人がいるというのだ。

この気持ちがすごくわかる。俺が盗んだ、クイーンのカセット、菊池桃子のカセット、寿司折、ハンバーガー、コーンビーフ、オイルサーディン・・・、償う店を訪ねたが、そこはもう跡形もなく消えていて、俺の償いは終わっていない。

コンビニバイト時代、セブンイレブンで働いていた時に盗んだ牛すじは、辞める時にオーナーに正直に言って給与から払った。だが、ファミマでバイトしていた時に盗んだものの償いは出来ていない。

時効かもしれないが、今後もずっと心に痛みを抱えていくだろう。とげは抜けることはない。

都合のよい解釈だが、万引き撲滅に向けた啓蒙活動をしていくことぐらいしか出来ない。

今の営業仕事のお客さんの1つに警備会社がある。システムコンサルタントと警備部門を併せ持つ会社である。県内だけでなく、県外にも盛んに進出している、儲かっている会社だ。

そこの専務さんから、先日俺に電話があった。

「うちが保安警備部門に参入するので、業務案内パンフの撮影に協力して欲しい。」という。

万引きのGメンとして、私服の張りこみ警備をする保安部門への商い参入に際して、そのイメージ写真を撮り、パンフ、サイト等でアピールされるみたいだ。

俺が働いている会社は、営業とは別に店舗を数個構える。その店舗で、万引き犯を見張る警備イメージ写真を撮りたいというのだ。

社長に断りを入れると、「任せた。」とのことで、先方に快諾した。

すると、俺にも立ち会って欲しいという。 まあ、それもそうだろう。いきなり来て、勝手に写真を撮ると、それ自体が限りなくGメンの捕獲対象となる。警備する側が警備会社に通報されちゃ、しゃれにならない。

俺は時間調整をして、店舗での撮影に立ち会った。少し、嫌な予感はしていた。

専務さんといかつい社員の方が来られた。いかにもGメンである。

どういうシチュエーションで撮影するのか知らなかったので、興味本位で、「どうぞ、どうぞ、ご自由に撮影ください。」と言ったのだが、来店開口1番、「あの~、万引き犯役やっていただけません?」と言われた。

めまぐるしく思考が頭で動きまくっていたのだが、時間にして1秒置かずに、俺は「はい喜んで!」と、威勢のいい料理人のような返答で、カゴを取りに行った。

「カット①」
店内の死角で商品に目をやっている俺、その後方の列にさりげなく潜むGメン。

「カット②」
ポケットに売り物を入れる俺、それを密かに目視するGメン。

「カット③」
店を後にして、駐車場内に足を踏み入れる俺、それを呼び止めるGメン。

万引きのホップ・ステップ・ジャンプを、静止画像で的確に捉えた写真が撮影された。

撮影が無事に終わり、深くお礼をされた俺であったが、「顔にモザイクかかりますか?」と聞いたら、「無しでもいいですか?」と質問返しされた。

気弱な俺は、「はい喜んで」と、またまた威勢の良い店員になってしまった。

保安警備だから、私服警備が必要とされる機関の数だけ需要はある。スーパーや大型店などに幅広く拡販ツールとして出されるのだろう。

高校の学園祭で、デビルにやられる神様役をやって以来の配役であるが、なかなか素敵である。死体役の次に素敵である。

だが、パパとなり、堅気街道まっしぐらの俺としては、素敵な主観に、複雑な客観が混ざる。

会社に戻って、社長に報告すると、「ぴったりの人選や!」と笑われた。

しばらく、社長は無視の刑に処してやるつもりだ。

なんだか不思議な経験をしたものだが、因果応報といった処罰ではなく、過去の悪事に対する償いの機会を与えてもらえたのだと、自己都合で解釈している。

Gメンにアーメン