2010年7月13日火曜日

転がる親父

転石のごとく、転籍をくり返してきた俺の今の仕事は、10年ぶりに出戻った会社の営業だ。

昨年4月に30人程の会社に出戻り、社長の腹心として種々の改革を、毒舌を吐いて推進してきた。

個人的な成績もよく(もちろん1番)、立場的にも快適。給与も悪くない。

だが、昨年の夏以降(出戻り4ヶ月後)には、もう、次なる転がり先を考えている自分がいた。

お世話になった社長と会社に不満を垂れるのは嫌なので、細部は言わないが、社長の持っている人間的資質の良い部分と、幼さゆえのしょぼく感じる部分とが相殺出来ずに、後者が目立ってしまって、それに俺がついていけなかったということだ。

昨年秋頃から、何度も社長に対して、建設的意見という名のダメ出しをしてきた。
一例だけ出すなら、毎月、成績行かなかった営業マンのおごりで飲みに行くという企画を社長自らがもちだしてきたことがあった。それに社長自身が参加する。

それに対して、「社長がそれ発案したらダメでしょう? 幼稚すぎます。 懇親は大事だから、毎月営業だけの飲み会を企画するのはいいが、悪くて会費制でしょう???会社的なものを社員に求めときながら、個人商店みたいなことしてたら恥ずかしい。」

ビジネス啓発本からの剽窃ばればれの企業倫理みたいな荘厳なことを語った後に、上記のような幼稚な企画が出てくるので耳を疑う。出張で、ゴチバトルを持ちかけてきた時以来のショボさだ。

思いつきでビジョンを語って酔う。その後に言ったことを忘れる。それでもカリスマがあればいいのだが、気の毒なくらいない。お坊ちゃまで、あるのは金だけだ。


すると毎回、翌日には俺の御機嫌窺いをして、媚を売ってくる社長がいた。俺の肩を叩いて、さりげなくすりよってくる。それがまた重なるといじくらしくなってくる。

ダメ出しはもちろん、会社を良くしようという動機から出たものだ。だが、ダメ出しを重ねていくうちに、本質を突くためには、社長の人間性にまで踏み込んで話さなければならないことが出てくる。そして、その本質が、上記のような幼稚なことから遡らなければならない。

そこでふと考えた。「そんな資格が俺にある??それに、そこまで言う必要ある?」 なんだか、ダメ出しする自分が傲慢だと思って、ダメ出しもしなくなった。

社長に辞表を出した。

すぐに話し合いになり、「どこがだめだった?」と色々問答が続いた。

俺からは、「社員が経営者にいつまでもダメ出しする環境は、越権行為であり、それをいつまでもしたくない。お世話になった恩義の返し方は色々あるけど、社長にダメ出しして問題提起することが、出戻り社員としての俺の役目だと思ったからした。ただいつまでもしたくない。一身上の都合ということで斟酌ください。」と言った。

翌日再度の話し合いがあり、社長から、「退職理由は、一言でいえば、俺が2回目の今回も見切られたということか?」と聞くので、

「言いにくいのですが、そうです。」

これで退職が決まった。退職日は会社優先で協力することにしている。ただ、辞める人間が長くいることが会社にプラスとは思わない。最短で最大限の好意的な引き継ぎをし、だからといって、お人よしにはならないでおこうと思う。

色々活字にしにくい、もっとびっくり仰天のしょぼさもあるが、出戻りを誘われた時点で、それを見抜けなかった俺が未熟だったということだ。

在職中の顧客で、お誘いを頂いているところが6件ある。退職後にゆっくり話を聞いて、ゆっくり考えたいと思う。

嫁は理解してくれた。というか、社長のしょぼさを事実だけを的確に話すと、納得した。

息子を抱っこしながら、「ごめん、お父さん、辛抱できんだ。でも、お前を飢えさせることはないから、安心しとけ。」と小声で言った。

息子は、「う~~~ん、う~~ん、ぶびゃ~~~~」とうめきながら、雲古を垂れた。おむつとズボンの厚みを超えて、俺の腕にその肉感が伝わった。俺の転職を肯定してくれているかのような、まん丸の雲古をしていた。

息子は明日が1歳の誕生日。小走りに近いスピードで部屋から廊下から走り回る。食欲は旺盛。病院嫌い。快便。物を投げるのが好き。本を破るのが好き。寝相が恐ろしく悪い。頭突きが得意。石頭だ。

親父は息子の成長をたくましく見守りながら、父親としての役目を懐深く自覚しながら、再び転がろうとするのであった。こけるわけではない。雅な苔を生しながら、慎ましく生きていくだけだ。


今月25日(日)に野外でライブをする。富山の音楽イベンターの方からお誘いいただいて出演する。

県民の憩いの大型公園内での野外イベントであるし、息子を連れて行こうかと思う。

ライブが終わったら色々次なる職場を求め、転がる先を見つけに話を聞くつもりだ。転がる瞬間のわくわく感が好きだ。同じ山の中で転がるようになりたいとは思うのだが、今はまだ山を飛び越え転がる馬力を宿している。これがファンキーというものだ。

次のライブはファンキーな「ソウルサヴァイバー」で始まり、「苔むす男」で終わるセットリストを予定している。なかなかローリンなメニューだ。