2009年4月5日日曜日

イチロー選手

俺の好きなイチロー選手がDL(故障者リスト)入りをした。何でも、出血性胃潰瘍のためだそうだ。

DLは、disabled List の略だが、何だかこの表現は否定の度合いが強く感じられて好きではない。

医者も、「既に治りかけている」ということなので、鍛え抜かれたアスリートであるから、本来なら15日までの強制休養をさせられることはないのだろう。イチロー選手自身も「本当は出たい」という主旨のコメントを残している。

選手の健康管理、選手生命に敏感な大リーグと、根性論がまだ支配していて、選手の意向を厚く尊重する日本の野球界との違いが見られて面白い。

WBCに涌いた日本であるが、日本が世界一連覇を果たせた背景には(韓国がいつも世界大会で上位に来ることも含めて)、無理をしてでも国にチームに貢献したいという選手の意志を尊重する日本の国民性があるのだろうと思う。

プロ野球選手のメインは、1年の3分の1以上を占めるペナントレースでの成績だ。そのシーズン開幕を前にしての世界大会であり、各選手、各国の世界大会への取り組み方、根本姿勢の違いが感じられた。

アメリカは愛国心に満ちた国民性だと思っていたが、自分を犠牲にしてまで何かに尽くそうという姿勢はむしろ希薄で、淡白な国民性なのかもしれない。

WBCにおいて、ダルビッシュ選手が、慣れないリリーフの連投を辞さなかったこと、各選手の全力疾走なんかを見ていると、職業野球人としての選手生命のリスクなんかへの配慮はなく、ただただ日の丸の重みに突き動かされる衝動が各選手に宿っていたように思う。
侍スピリットとの表現は、的を射ていると思う。

WBCで故障した村田選手のように、例年なら調整時期である3月の全力でのパフォーマンスは玉砕と紙一重である。そのリスクを伴いながらもそれに怯えず、全力でプレーする。

そして、彼らのプレーを見て、日本国民は気持ちを鼓舞される。注目度が高いことは驚異的な視聴率を見てもわかる。まさに、日本国民性にぴったりの大会であったのだと思う。日の丸に熱狂する姿勢が好きな国民であり、俺もそのタイプだ。決勝戦は久々に野球を見て感動した。だが、日本人のこの性質は良い面だと思う一方で、怖さ、脆さ、残酷さも内包している気がして、少々怖くもなる。

冒頭のイチロー選手に戻る。

イチロー選手のDL入りの報に際して、「イチローも人の子だった」といった見出しが並ぶが、なんだかこの評価は安っぽく思える。イチロー選手に対して好意的な論調であるが、何だか彼をピエロにしているような気がして違和感を覚える。

WBC直後の胃潰瘍ということで、原因は誰でもが想像できる。WBCのプレッシャーだったのはほぼ間違いない原因の1つだろう。

色んなメディアがある中で、1つくらい、「プレッシャーを過度に与えてしまって申し訳ない。ただ、その中でも身を削って我々を鼓舞してくれたことに改めて感謝します。」といった主旨の論調がないのが気になる。

1試合ヒットがないだけで、「スランプ」という言葉を安易に使ったメディアが、決勝戦後には神のように崇める。よくイチロー選手も馬鹿なメディアに対して相手しているな~と思う。

イチロー選手のコメントは時にそっけない調子で報道される。「愛想が悪い」と書いていたメディアもある。「一匹狼で、天狗である」とまで書いていたメディアもある。

だが、俺自身は、彼のコメント、マスコミに対する接し方は素晴らしいと思う。最大限の真摯な対応だと思う。

イチロー選手に限らず、驚異的な活躍を見せる人たちが、公人も同然の扱いとなるのは宿命かもしれない。メディアを通しての活躍を見て、素人が好き放題コメントする。だが、そのほとんどは、敬意を欠いたものであることが多い。

イチロー選手のような人には、甘い汁を求めて群がってくる魑魅魍魎が跋扈する。富を狙う奴ら、名声を利用しようとする奴ら、興味本位な奴ら・・・。

そんな奴らに食われないためには、彼らは警戒心を緩めずに、自分をしっかり持たねばならない。凡人には理解できない孤独感があるだろう。だから、メディアはイチロー選手のような人を超人と呼ぶ。

だが、超人は存在しない。イチロー選手のように、ひたすら自己鍛錬、自己節制を繰り返し、才能を丁寧に育む日々の積み重ねが、優れた活躍につながり、それがメディアに載せられた時に、超人は生み出される。そして超人を勝手に生み出してしまったメディアは、超人が超人らしからぬ時期には、失望とため息を安っぽい論調で報道する。

マスコミに1番必要なのは、自らが作り出した「超人」に対しての敬意を最後まで持つことだと思う。凡人が理解できないレベルの人を「超人」と冠するのであれば、冠した後に凡人目線で報道することを避けることが、倫理的な約束事だと思う。

1人の人間イチロー選手を俺は尊敬している。メディアを通してイチロー選手を見ている凡人である1ファンの1人である。

驚異的なパフォーマンスを見せる人に魅せられる側が、脅威的な視点で報復する事態が見たいのではない。

シーズン開幕、開催に際して、イチロー選手のプレーを見て、今年も快哉を叫びたい。幸いにも、軽い練習を再開されたとの報道が今日なされていて嬉しく思う。

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