2010年9月20日月曜日

帰省する

大阪の実家に帰省していた。

息子にとっては初の長旅、大阪のばあちゃんとの対面は、まだハイハイをして前に進まずに後退していく時期以来であるから、半年ぶりである。

初日は実家に行く前に、近江八幡の親戚のところに寄る。俺の伯父さんにあたる人で、個人的に1番気が合う人である。

この伯父さん、定年退職後からカメラと俳句をはじめ、新聞でも取り上げられるようになり、公的施設の展示ブースを借りて、初の個展を開催中というので、帰省の途中に立ち寄った。

B5くらいの紙に墨で句をしたため、そこに俳句の生まれた原風景をイメージしてカメラで撮った写真をを貼って、1枚の紙に作品としている。俳句と写真のコラボというものだ。すべて手作業であり、ダイソーで買ってきた色紙を使っての作品である。 これが60点、展示作品として並んでいる。

伯父さんの個展にかける意気込みはすさまじいものがあったらしい。準備段階からすごいエネルギーを使ったのだろう。「これが終わったら死んでもいい」と、妹である俺の母親に言っていたらしい。先日には来客対応の気疲れからか、夜に点滴を打っていたという。

伯父さんの体調に配慮して、作品をじっくり鑑賞させて頂くのは個展終了後の楽しみにして、とりあえずお土産を渡して、かっこいい伯父さんへの個人的賛辞だけを述べるつもりで伺った。

「雪やまず  バッハのチェロは 無伴奏」
「春雨や 大地の息吹 膨らみぬ」
「稲刈りの 留守をあづかる 土間の猫」

素人か玄人かはどうでもよいが、句の題材が幅広く、伯父さんの自然を感じる力の強さを感じた。

息子にもいつか味わってもらいたい世界がそこにはあった。

近江八幡から大阪へ。実家から5分の所に高速インターがあり、1時間ちょっとで
到着。

息子は人見知りする。近所のおばちゃん、親戚、だれかれかまわず、話しかけられたらまず泣く。
女子高生に話しかけられた時だけにやにや上機嫌であるが、それ以外は間違いなく泣く。

おばあちゃんを覚えているわけはないのだが、意外や意外、泣かなかった。ばあちゃんに抱っこされるとエスケープの意思を示し、こちらに手を伸ばしてくるが、心配していた大泣きを避けることができて、親としては一安心。

実家には老猫「ニール」がいる。生後16年目でとにかく気が弱い。ドミナントキャットであり、野生の香りがまったくない猫だ。

ただ、俺は動物アレルギーが強く、実家に泊まると鼻炎がひどくなる。ニールに触れるのはもちろん、近くを通るだけでも嫌だ。掃除機で念入りに毛をとってもらい、空気清浄器をかけた部屋(もちろん終日ニール禁制)でしか寝ることができない。

息子を動物園とかに連れて行ったこともあり、俺の動物アレルギー自体は遺伝してないのを確認
済みではあったが、それでも屋内での動物との触れ合いにどんな反応を示すか、楽しみ半分、不安半分であった。



杞憂であった。猫を見つけると、興味を抱いてじっと観察したかと思うと、勢いよく駆け寄っている。息子の足音にニールのほうがびびって逃げるのであるが、どこまでも追っていく。机下に潜り込んだら息子も潜り込み、カーテン裏に隠れたらカーテンをめくり、尻尾や体を触りまくる。

そして、普段見たことないような、「二ヤ~~」とした表情を見せる。奇声をあげ、けらけら笑う。

動物嫌いの親の無念を晴らしてもらうべく、もっと大きな動物とのふれあいをさせてあげられないか? 思案して妙案を思いついた。

翌日は奈良公園の鹿を見に連れて行った。

「鹿せんべい」を買って鹿を近くに呼ぼうとする。息子に言う。

「今から鹿さん来るけど、噛んだりしないからびびらんでいいからな。おとうさんがついとるからな。」

そして鹿せんべいを頭上に翳すと、目ざとい3匹がすぐにみつけて小走りでこちらにくる。
息子がどんな反応をするか楽しみだった。

大人的余裕をかましていた俺ではあったが、近くに来てからの奴らの野生の圧力というか、食い気に圧倒された俺は、恐怖を感じた。

びびったのである。「や、殺られる!!!」

鹿せんべいを空中に放り投げ、「ちょ、ちょっつ、苦オラ~~!!!! こわいこわいこわい!!!!」と大声あげて、抜ける寸前の腰で数歩退散しようとした瞬間、そこは父親、「あ、息子を助けなければ!」と、我に返る。

息子は自分より背丈のある3匹の鹿に取り囲まれ、鼻で頭や胴をつつかれ、今まさに集団リンチをくらいそうになっていた。

しっかり抜けた腰をはめ直し、四つんばいで救出に向かおうと視線を息子に送る! 

視線の先には見たことないくらいの嬉しそうな笑みを浮かべる息子がいた。 そして、あふれんばかりの嬉しそうな奇声をあげていた。そして、頭や顔に触れてくる鹿を叩いていた。おまけに逃げ出す鹿を走って追いかける。

「Oh my Junior!」 なんだか照れくさいお父さんであった。

夜もぐっすり、食欲も旺盛。うんこもばっちり! 機嫌も悪くない。

見慣れない家、景色、人、生き物、チャイルドシートでの長旅、1歳2か月の子供にはそれなりにストレスになることもあったのではないかと、大人都合で思うのだが、彼らはもっとたくましかった。

旅に出て、息子の新たな一面を見て、なんだか頼もしく感じた。

今まで帰省した時は、ライブがメインであった。または、俺のライフワークであるアングラ&アッパー&ダウナーな土地探索がメインであり、さんざん探索して夜は、気の置けない友との酒宴があって、実家は寝床を借りるだけといったものであった。

だが、今回からは、孫をばあちゃんに見せる、息子にいろんな景色や事物を見せるといった、父親的役割の帰省になる機会が多い。

役割に応じた帰省目的があるし、時間的制約もあるが、今回の息子のたくましさを見る限り、次回からは実家に息子を預けて、お父さんは自由に旅立とうかとも思っている。

個人的に歩くのが好きなスラム、赤線跡、任侠ストリートを子連れで歩くほど、俺は狼ではない。

息子にはばあちゃんと一緒の時間を与えて情操を育み、俺は俺で、大人の情操を満たす。

今後、何度も帰省するわけであるが、いろんな帰省バリエーション持って旅路につきたい。

それにしても、奈良公園は鹿のうんちっちの多いこと多いこと・・・。避けて歩くのは困難であり、いっぱい踏みしめて歩いた。


「鹿糞を 触った後の 指しゃぶり」 (「まえけんジュニア全集第1巻」『初めての接糞(せっぷん)』より)

「腰抜かし ついたお尻に 糞感じ」 (「まえけん全集第6巻」『お尻で奏でるセレナーデ』より)

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