2008年7月19日土曜日

侍:野茂選手

野茂選手の引退報道は、個人的に大きなニュースだった。

引退という事象だけでなく、ここに至るまでの全ての行為が完璧にかっこよかった。
地味で無骨な性格ゆえに、格別に黄色い声援を受けることもなければ、一般受けする派手な野球外でのパフォーマンスがあるわけではない。

ただただ、彼は自らのピッチングのみでパフォーマンスを続けた。ノーヒット・ノーラン2回なんていうのは、凄まじい。

全盛期の活躍だけではなく、体力が衰え、メジャー降格になった後の取り組みの一挙一動全てのほうが、個人的にはむしろかっこよく思えた。

あれだけの実績をひっさげながら、マイナー暮らしを転々とすることを自ら選び取り、そこで出来る最大限の動きをされていた。過去の栄光にしがみついているといった姿勢ではなく、まだ出来ると思える自分に素直に従い、周りの状況や評価には良い意味で無関心でいられる精神の強さ・・・、真の侍だ。

彼の引退発表の言葉がしみた。

「悔いはないという人が多くいるが、僕自身は悔いだらけです。」

なんて素直で純度の高い言葉だろう。悔しくないわけがない。遣り残したことがないわけはない。一般的に言えば後ろ向きな言葉なんだが、彼が言うと前向きな男の美学を感じるから不思議だ。

桑田選手が「悔いはないです。」というのも感動したし、野茂選手の「悔いだらけ」という言葉も感動した。言っていることは対極だが、同じ感動を受けた。

すごい男、侍が言う言葉は、単なる言語を超えた凄まじさを持って、聞き手に伝わるから不思議だ。

アスリートに関わらず、身の引き方には色んな美学がある。華々しいうちに身を引くやり方、ずたぼろになるまで関わって、どうしようもなくなってからの引き方、どちらにも正解はないのだろう。

やはり、そこに至るまでの個人が歩んだ日常の濃度、それが進退の現場で滲み出るのだと思う。高い人が選んだ進退とその後は、凡人には真似出来ないすごさがあり、感銘を受ける。

風向きに惑わず、第三者の目を判断基準に入れず、ひたすら自分が信じた方向を歩み、そこで限界があれば、次の進路を潔く選び取る過程・・・、素晴らしい。素直に見習いたい。

吉井選手が野茂選手にかけたコメントも素晴らしい。「 本当に彼が決めたのであれば、おめでとうです。」

戦う男の言葉にボキャはいらない。
こんな簡潔で素直な言葉を吐ける人間になりたい。侍でありたいと思った。

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