2009年1月20日火曜日

回帰? 再生?

オバマ氏の就任演説が間もなくだ。アメリカ大統領の就任演説は、そのまま歴史的な文献として世相を反映し、文学的価値の高いものだから、読み応えがある。楽しみだ。

オバマさんの遊説先での演説は何度か見たことがあるが、オバマ氏が家族に対しての愛情表現を取り入れている場面があった。アメリカの代表として国内はもとより、世界全体への初心、所信表明の場でも、家族愛を演説内容にいれるあたり、いかにもアメリカだなと思う。

「24」を見ていても、毎回電話を切る時には、「愛しているよ」というセリフが出てくる。相手は妻であったり、子供であったり色々であるが、ジャックだけでなく、ブキャナンも、トニーも、オードリーもみんな言う。

そして言われたほうも、“I love you, 人.”に対して、“Me too.”ではなく、“I love you too.”と、はっきり動詞を入れて返答する。

このあたりの、意思表示の強さに1番アメリカ的なものを感じる。人前であろうとなかろうと、自らの感情を恥ずかしげもなく表すことのできる背景が、アメリカにはある。

これが日本だとどうだろう。横に同僚がいる時に、妻に電話をした人が、「愛しているよ、クレオパトラ!」といった結びを吐こうものならば、その人は翌日から、キモ、キショのステッカーを貼られるだろう。決して「奥様思いの良いだんなさんね~。」といった好意的な解釈はしてくれない。

日本では、妻や家族や恋人に対しての愛情表現は、決して公にするものではなく、もっとムッツリとするべきだという背景がある。さらに、2人時のムッツリ環境でも、「愛しているよ、ムッソリーニ!」といった言葉は、なかなか照れて吐けない背景がある。

どちらが良いとか悪いとかいうものではない。日本的な恥じらいの文化も、アメリカ的な明確な意思表示をする文化も素晴らしいと思う。どちらもそれぞれの文化に対する強い矜持を持ち、大切にするべきだと思う。俺は典型的な日本人気質を持つ1人の人間として、自分にはない、アメリカ的なものに少し興味を示しただけだ。

今の日本では、アメリカ的なものが、表面的にも内面的にも満ち溢れてきている。町を少し歩けばハンバーガー屋や、アメリカ的なショップにぶち当たる。

日本人の恥じらい文化はどこへやら・・・、電車に乗れば、化粧をする女子高生をたくさん見かけるし、鬻ぐ女よりもビッチ風味のナオンがたくさんいる。そして、人前で意思表示といえば聞こえはいいが、1人よがりの極論を垂れ流すことが美化される時代である。

別に、アメリカ的なものに感化されることが悪いのではなく、ネット環境によって狭くなった世界が、大国の文化に影響を受けることは仕方ないことだと思う。でも、まだまだアメリカ的になるには、日本人側の素地が中途半端で、矛盾をはらんだケースが多く見られる。

例えば、薬物中毒や精神疾患をカミング・アウトしやすくする体制、そしてカミング・アウトした人に対する治療の受け入れ体制、復帰後の受け入れ体制共に、日本には素地が出来ていない。その一方で、アメリカ的なものを表面的に模倣した商業スタイルやマス・メディアが世論を煽るものだから、谷間で浮かばれない人が出てくることになる。

華原朋美さんの奇行がまた報じられていた。カミング・アウトではなく、外部からの報道だ。本人が一生懸命闘っているというのに、「奇行、薬物障害」の文字で報道するわが国のメディアが、アメリカ的なものなのだろうか?

華原朋美さんの例は、スキャンダルという醜態ではないと思う。1人の傷つきやすい少女が、芸能界でぼろぼろにされて、今それと向き合っているというのに、医学的な治療の場を用意してあげるわけでもなく、一方的な潰し報道にしか思えない。治療は身内にまかせて、そっとしておいてあげるか、みんなで再生の道を用意してあげるという、心ある報道ではないように思う。

ブリトニーが薬物依存に陥った時に、それをサポートする体制があって、復帰した後に歓迎してくれるだけの受け入れ体制があるアメリカの文化は、表層だけを真似ている日本と比べて、やはり懐が深いというか、ピューリタン入植時の「再生」の精神を今なお宿した国だなあと思う。

「恥じらいある精神」「わびさびの精神」である日本人の精神文化は、その一方で「村八分」の精神を生んだ。良し悪しは別として、日本はそうだった。歴史的にも体験的にもそうだ。はみ出し者を受け入れられない、集団から排除する精神文化が、確かにあった。

人種差別と魔女狩りを生んだ国アメリカも、標榜する自由とは裏腹に、種々の問題を抱えている。

だが、良くも悪くも負のしつこさを持たない国だ。「再生」できる体制がアメリカにはある。日本が表層を真似ても、このアメリカの「再生」感が根っこにない限り、それは日本人古来の精神文化にとって、相容れない矛盾を内包するだけの結果に終わると思う。何にしても中途半端な精神文化に今の日本人は晒されていると思う。日本人的アイデンティティーが揺らいでいる時期にあると思う。

日本人が持つ古来の精神に「回帰」するのか、それとも、アメリカ的な「再生」の精神文化を構築するのか、オバマ演説を見ながら考えたい。

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