2007年11月7日水曜日

Hey Ya!

今日は1年に最大で4回の苦行である髪切りの日であった。
1週間前から覚悟していて、嫁にも宣言していたのだが、今朝になって、起きしなに愚図った。
「決めた日に行かないと無駄に伸びるよ!」という激のもと、ふてくされて行った。

高校3年生夏までは、散髪自体はそんなに苦にならなかった。ツルツルヘアーであるので、家でバリカンをあてることも多かったし、短時間で済んだ。しかし、野球部を引退したあたりから、床屋に行くことは俺の中で、苦痛以外の何ものでもなくなった。

18歳後半から32歳ぐらいまで、俺は俗に言う、「行きつけ」の店を持たなかった。多くて同じ場所には2回であり、毎回店を変えた。幸いにして、5年前くらいから、やっと苦行の苦しみを薄めてくれる店に出会い、現在に至る。あくまで薄まっただけだが・・・。

通常1時間近く、パーマネントをあてた日にや2時間近くもの間の時間を、定姿勢で固まっていることが、まず耐えられない。それに店主が持っているのは鋏や剃刀といった凶器だ。それを首筋から頭まで容赦なく振り回されるのだ。苦痛以外の何ものでもない。変な前掛けをされ、背中がかゆくなってもかけず、前面にある鏡では、俺の頭髪の解体ショーが行われている・・・。これは、修行だ。

息詰まる攻防をぬけ、やっとシャンプーのお時間に相成った時には、俺はすでに我慢の限界を超えている。「シャンプーは自分でするし、微調整もドライヤーもいいから、今すぐ帰らせて。」このひと言が言えたらどんなに楽であろうか? しかし、気弱な俺はなされるがままに洗面台のタイル面に頭をぶつけられる。舶来ものの高級シャンプーは香りがエレガントであり、根本的に嫌悪感がある。
それに、洗う時間も長い長い・・・。自分で洗う時間の5、6倍の時間、俺の頭上ではシュワシュワ、チャブチャブ音が聞こえる。

散々人のドタマをこねくり返して、店主は言う。「かゆいとこないですか?」

シャラ~ップ! 「あるかい! そんだけこねくりかえして、かゆいとこあったら、それは寄生虫じゃ!消毒液かけんかい!」と言いたいのを抑える。

次はドライヤーの出番だ。実にめんどくさそうな、酷使されたモーターの臭いがする。髪はなびく。分け目は6,4だ。中国的素敵壮年といった髪体に仕上げられていく。間違いなくもてるぜ俺は、中国辺境で!

涙が出そうになる瞬間を終え、店主の「お疲れ様でした~。」の声の合図で、俺はイスを離れる。目指すは出口だ! レレレのおじさんが愛用するほうきの、幹部分が短くなったブラシで、俺は最後の肉体接触を終える。ゴールはもうすぐだ! 会計を済ます。つり銭が無く、硬貨をくずす間待たされる。

「終わった~! 今から俺は自由だ!」 外に出た時の爽快感は、佐川急便の研修を終えた時と同じ心地よさだ! 風は、季節、気候関係なく春風だ! そよぐぜ俺!

三途の川があったのだった・・・・。

背中に店主のお目目を感じた。お見送りというやつだ。車に乗るまで両手両足が同時に動く。乗った。エンジンかけた。動揺していてワイパーがフル回転した。オートマを2速に入れてアクセルを踏み込んだ。夜明けは近い!  

駐車場から路上に出る所に園児がいた。保育園全体の遠足だ。俺の目の前にいるのは先頭のキッズだ。キッズの列は100メートルにも及ぶ。牧歌的だ、あはは・・・。 ここでなければ・・・。

「こら! じゃりんこと先導のおばはん!間隔つめんかい!」

背中にまだ、お目目を感じる。車内の鏡に写る中国的素敵壮年の笑みはニヒルだ。頭で鐘がなる。悠々と流れる黄河を背景にカンフーをしている俺の姿が園児にかぶる。 アタ、アタアタ! アイタ!

上記の過程は誇張ではない。毎回俺はこんな緊張感を持って床屋に入る。

いっそのこと丸坊主にしたい。しかし、丸刈りは懲罰と侠道の香りを感じる。塾にはまずい!

今年3度目の苦行を終えた。執行猶予は最大5ヶ月だ。それ以上だと社会的実刑を食らう。堅気であるのは大変だ。

帰りしなに見上げた空は俺の苦行を祝福しているかのようだった。祝福の時間は短い。

ちらっと横を見ると、行ったことのない床屋の看板が目に入った。「髪切り虫」・・・・・。
俺は頭の中で竹刀を振り下ろした。 Hey Ya!  面を食らった。 面食らった。 おわる。

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