2007年11月18日日曜日

冬の犬

越中富山の朝方の冷え込みが本格化してきた。昨朝は車の窓が凍っていた。今朝は水の冷たさにびっくりした。いよいよ本格的な冬に変わろうとしている。 

越中の冬の訪れはドラマチックだ。立山の頭頂から、おでこ辺りが白々としてくる。 ぶりの水揚げが本格化する。 富山湾の頭上にマイナス40度ほどの寒波が襲来する。

最後の仕上げは雷だ。 「ぶり起こし」の異名を持つサンダーが鳴り響くと雪の幕が明ける。
「ぶり起こし」は都会の雷とは明らかに音色が違う。  空が腹下しをしたかのような間抜けな重低音ではない。ハイトーンヴォイスと、ツーバースが絡み合うヘビメタサウンドだ。

雪のボスは狡猾だ。まず、手下を地上の偵察に出す。
ボス: 「こら! 歩兵! 地面の温度下げて来い!」
歩兵頭:「行って参ります。ボスの御霊にかけて、溶けずに目的を果たしてまいります。」
 
こうして無数のボスの頭皮のフケである歩兵が振り落とされる。スローガンは「溶けがりません、着くまでは。」だ。

すると風が強くなる。歩兵は横殴りに吹き飛ばされながら、なんとか地面を目指すが、地表にたどり着く前に多くは玉砕する。溶けるのだ。

地面に着けないまでも、幸せな一部の歩兵はおっさんの頭皮に守られ、その黒髪を白く染める。時に「おっさんの頭皮のフケ」であるフケ友と涙の再会を果たす者もいる。 下にいるおっさんは、頭上が賑やかになり、手で払う。 涙の再会はあっけない。 固体をぬらした天のフケはハンケチーフに吸い取られる。死の前に強烈な臭いをかぐ。憐れで仕方が無い・・・涙を拭け!

歩兵が量に物をいわせて地面を責める。 すると曲者桂馬の出番だ。 歩兵が少しは温度を下げた地表を変則的な動きで攻める。その横を時々、溶けることを忘れた香車が直線的に落下する。特攻隊のように速度が速い。速いゆえに衝突して気絶する。 頭上を車が走る。 ショック療法で気を取り戻してすぐ息絶える。 車体の臭いをかぐまでもなく息絶える。憐れで仕方がない・・・香りをかげ!

無数の下僕の働きの効果が出て、地上の一次任務が完了すると、「ぶり起こし」は演奏を止める。

「気をつけな、ボスが来る・・・。」

 雪国の県民は賢い。雪への備えは完璧だ。タイヤを拷問仕様のスタッドレスに、大型スコップ「ママさんダンプ」を玄関前に、路上に埋め込まれた無数の水巻爆弾は井戸水を吸い上げて準備万端だ。
大型戦車である除雪車への人員配置も完璧だ。

しかし、雪は不意打ちをかける。人間が眠っている間に敵陣を支配する。ボスは地表近くの要塞に腰を下ろし、春まで居座る。雪の勝ちだ。完勝だ! 

しかし、勝利は一瞬だ。人間様が負けたままで終わるわけが無い。

こうして、あたり一面の雪景色が完成すると、雪との戦いが本能的に組み込まれている県民は、多くが敵意をむき出しにして、雪よかしという名の排除作業に精を出すのだ。車の屋根の雪を、怨念のこもった目で払い落とす人がたくさんいる。ガシガシに圧縮され、でっかい球体にされ、人間の表情を着せられる旦那、いや達磨もいる。犬にまで笑われ、小水をかけられる。

こんな雪が、愛おしくてたまらない。冬が好きだ。雪が好きだ。雪が地表を覆うまでの前触れも好きだ。病的なわくわく感を覚える。冬好きコンテストがあったら負けない自信がある。スキーをする人が、雪好きではない。彼らは速度好きだ。斜面好きだ。雪上以外でやって欲しい。  

俺はスキーはしない。小学時分に、ボーゲンの八の字を逆にして、股が裂けたことがある。失禁した。雪に小水をかけた。犬と同じである。 俺はその日のことが悔やまれて仕方がない。

街中の雪を多少なでてしまうのは仕方が無い。しかし、街中より温度も低く、山中での戦闘後のバカンスを楽しんでいる雪を、踏みつけるのは許せない。鋭利な刃物でだ。つま先蹴りを食らいまくる環境におかれたくて落下してきたわけではない。雪の気持ちも考えろ!

少し言い過ぎた。雪を愛するあまりに言い過ぎた。スキーをする人への放言だ。愛好家から八つ裂きにされそうだ。するなら股以外を裂いて欲しい。

大好きな冬の到来。雪の到来。気温が下がれば頭温も下がる。文字を捨て、野に出よう。

俺は犬年の12月生まれだ。喜び、野を駆けめぐろう。

・・・・・・・・・駆ける前にすっ転んだ。凍結攻撃にやられた。いて~のだ。俺は射手座であった。何も言うな。 射るな。 今日は去ぬ。

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