2007年11月27日火曜日

馬力が違う

うちの親父(戸籍上の父親、つまり、養子の俺にとって、嫁の父親)が、ヘルニア手術で2回目の入院をすることになった。2週間ほど前から痛くて立てなくなり、仕事を休んでずっと家で寝たきりで過ごしていたのだが、今日、病院に行って手術を決断したようだ。2回目であり、前回の恐怖も残っているだろうから、それなりに苦悩もあるのであろうが、痛みを取るための決断であり、前向きになっているようである。

内臓とかの手術ではないので、そんなに心配もしていない。ただただ、術後に順調な回復をし、余生を満喫できる体力を回復してほしい。本人は、まだ仕事をしたいそうだ。

俺の親父の世代の人間に、俺は心から敬服する。ざっくり括るならば、戦後から1950年代までに生まれた人たちだ。高度成長を仕事で体感してきた人たちだ。彼らの根底にあるパワーは、それ以降のヘナチョコとは、物が違う。向こうが馬なら、こちらはアヒルか鳥くらいだ。人を乗せて歩くパワーはない。

親父は、中学を卒業後、今の職場に入り、鉄骨建設の現場労働者を45年以上こなしてきた男だ。
勤続年数だけで、俺の年齢を超えている。しかも、一つの業種で一つの会社だ。俺の職歴は彼の年齢ほどある。嫌な相関だ。

親父の仕事は楽な仕事ではない。作業服の汚れや、工場の建物を見ると、プロレタリアートを絵に描いたような仕事だ。昔流行した「3K」なる言葉もやわに感じるほどの激務であると思う。

それを、年金がもらえる年になってもまだ、「働きたい」という。爪の垢でもチンカスでも煎じて飲んだところで、俺には真似できない勤勉さだ。

この世代の人が凄い理由は、種々考えられる。「選択肢が多く用意されていなかった。」「生活が楽ではなかったので、家族のためという一心で働く環境があった。」「高度経済成長の間接的な実感がパワーの源になった。」

どれも正解であろう。物質的に恵まれない世代に生まれたことは幸せなのかもしれない。それにしても理由をつけて賞賛するには、言葉による分析はあまりに陳腐である。

今の世の中の礎を作ったのは、俺の親父のような人たちであり、そんな親父が身近にいることを幸せに思う。彼らは、学歴はないが、賢いし、口下手ではあるが、言語能力に優れている。学ぶべきお手本は、この世代にある。一つでも多くのことを吸収したい。

先日、行きつけのレコード屋のご主人と話していて、「50年代、60年代の音源に外れを探すほうが難しいですよね~」といった会話をしていた。好き嫌いは別として、この時代の音楽は、今とは何か違う力があったように思うのだ。

何か? やはり馬力だ。物が豊かでない時代に、音楽が市民権を得ていない時代に作られる音楽と、今の音楽が同じパワーの精神力で作られているはずがない。やはり、人が備えた馬力が違うのだ。

見習おうにも見習えることではない。ただ、俺が出来るのは、俺の世代なりの最大の精神的パワーを注ぎ込めるように、真摯に取り組むことだけである。命を賭けるといった、安っぽい言葉での取り組みではない。俺らの世代なりの馬力が出せる能力は限られている、命を賭けたところで、先人の馬力には負ける。

馬力がないことを認めたうえで、恵まれた時代に生を受けたことに忠実な音楽を、精一杯の馬力でもって作りたいと思うのだ。比較対象は、先人ではない。自分に真摯に向き合い、自分のキャパと対比して、今出せる精一杯の性能を出そうと思う。

親父達はすごい馬力で生きてきた。よそ見をする機会もなく、ただただ、日々を誠実に生きてきた。彼らの晩年に、俺達は、最高の贈り物として、種々の興味の機会を与えてあげたい。

旅行でも、音楽でも、絵でも、盆栽でも、釣りでもよい。彼らが味わったことのないだけで、実はすごく惹かれる素地があったであろう対象を、こちらは真摯に観察し、随時提供していきたい。

それには、体があってこそである。よそのおっさんは知らない。うちの親父だけは元気な体を宿して、本格的な老後を迎えて欲しい。

俺は親父にたくさんの楽しいことを教えてあげ、それにかかるであろう費用も彼に費やす機会を与えてあげようと思う。旅行に彼が行きたいというならば、俺が最高の企画をする。もちろん添乗員は俺だ。客室のグレードは、親父がエコノミーで、俺がデラックスだ。

世代相応の楽しむ感覚が違う。親父に優しい庶民部屋と、俺に優しいセレブ部屋を用意することに俺はやましさを感じない。親父が徒歩で自然の道を闊歩するなら、俺は、タクシーで行程を先回りする。自然の中では1人にしてあげることも大切だ。有償の愛だ!グランジラブだ!

何を愚かなことを書いているのであろう・・・。

馬力だけでなく、性根も違う。俺を治す術はない。しかし、親父を治す術はある。痛みだけであれば変わってあげたい。彼の馬力を信じる。俺は今週の競馬の二歳馬の能力を信じる。 信じる先に馬力ありだ。

この青二才!                          →         俺

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