2008年2月11日月曜日

郷愁

昨日、メンバーと離れ、18時前に京都を離れたのだが、京都東インターに向かう道すがら、俺の帰巣本能が刺激されるのがわかった。メンバーといた時は、かなりの現実感があって、懐かしさはあったものの、当事者としてのリアル感があったのだが、離れた瞬間から、俺は、なんだかすごく遠くに放り出された人のような気がした。

連休中の五条通はかなりの渋滞でのろのろ。日が長くなったとはいえ、道行く車のライトが全灯になる時間、俺は山科に入る手前で、家までの道のりが果てしなく、辛い気持ちに襲われた。

思えば、関西滞在時のこんなホームシックめいた気持ちは、初めてである。関西以外の土地で、たそがれ時には、よく感じていただのが、関西(京都・大阪)滞在中は、何時であろうと、帰巣を急ぐ気持ちは芽生えたことがなかった。なぜなら、そこを旅先の土地と認識していなかったからだ。

大阪で生まれ育ち、京都に7年暮らした俺にとっては、越中富山に移住した後も、依然として京都・大阪が我が住む町という感覚があった。だから、帰省するという感覚はなく、長期出張から帰ったような気分であった。

それが、移住して12年、完全に俺の巣は富山になったような気がする。実家に泊まっていても、完全なる「他所の布団」という感じがした。枕が変わると眠れない俺でも、実家ではよく眠れたのだが、今回は他の原因があったとはいえ、安眠できるものではなかった。

それに、京都・大阪滞在中のおかんとの会話や、種々の店での店員の声を聞いていても、確実に関西弁を俺とは異質のイントネーションで聞くようになっていた。大きな驚きである。関西弁のイントネーションというものに対する異質感を味わったのが初めてである。俺の言葉は確実に今の郷に従いつつあるのかもしれない。

冷静に考えると当たり前なのだ。俺が関西で過ごした時間の二分の一を、もうすでに富山で費やしているのだ。我が巣に対する感覚が富山よりになるのは仕方がない。少なく見積もって100歳までしか生きられなかったとしてもだ、俺は関西で過ごした時間の3倍を富山で過ごすことになるのだ。完全なる富山人である。

郷愁という感覚が、生まれ育った土地に対する慕情であるならば、帰郷は仮初の穏かな時間であろう。そこに滞在している時間に味わう胸がときめく感覚、確実に覚えている町の匂い、距離感とスケール間の感覚がずれたなかで味わう町の風景、これらは、単なる観光地訪問とは違う、本能を呼び覚ます何かを与えてくれる。

しかし、帰郷の時間はせつない。自分の定巣が別の土地にあるならば、長い年月を経てみれば、例え自分が生まれ育った町であっても、そこでの自分は完全なる異邦人である。異邦人として時間軸を超えて触れ合ってみたものの、その空間は日常の時間とは異なった、どこか異質のものに感じる。

実家のマンション(今では団地というべき昔タイプのマンションだ)の近くで、朝方に散歩した数分間、そこで昔の同級生の姿を見かけた。後ろ姿だった。彼は子供を連れて、彼なりの日常のひとコマを過ごしていたんだと思う。ただ、それを見たときに、実家の空気に溶け込んだ彼とお子様の醸し出す雰囲気が、俺のそれとは違うような気がした。日常のひとコマとして空間に溶け込んでいる彼と、空中浮遊したような、病み上がりの時の歩行感を味わっている俺・・・。

何か悲しくて、それでいて温かい感情が俺を支配した。喜怒哀楽の区分が出来ない涙が溢れそうな気がした。俺は、実家の土地に対して、完全なる異邦人であったような気がしたのだ。

俺が生まれ育った土地が俺を拒否しているわけではない。ただ、そこでの空間は、俺の中での非日常の空間であり、何気ない映像の1つ1つに溶け込めず、傍観者たる自分がいるような気がした。映画のワンシーンを見ているかのような感覚に近かった。

なんだろう?上手く書けないのだが、郷愁という感覚が、俺の中で少し変わってきていることに、一瞬の戸惑いを感じただけかもしれない。他の人の郷里に対する感覚はわからないが、路傍の人として、そこに佇む自分に、一抹の寂しさを感じていたのかもしれない。これが、郷愁の本来の姿なのかもしれない。

1年ぶりという、今まで経験したことのない期間が俺に一時の感情を抱かせたのかもしれないが、郷里に対する哀愁と愛執を感じた俺は、確実に今の土地に根ざしているのかもしれない。それならばそれでよい。故郷は離れてみて味わえるものなのかもしれない。まだ、味わいきってはいないのだが、俺は少しだけ成長したような気がした。そしてそれと共に、成長したことへの哀愁も感じた。

俺が晩年に抱く、郷愁への感覚が、ポップなのか、ソウルなのか、ブルースなのか、フォークロアなのか、はたまたサイケなのか、どの感覚を味わうかは、今後の俺の大地の踏みしめ方にかかっているような気がした。

俺は、ニールヤングの「ハーヴェストムーン」のようなハートウォーミングなロール感を味わいたいと思っている。

0 件のコメント: