2008年2月2日土曜日

萌え燃ゆ!

俺の高校時代、大学受験英単語の定番教材といえば、「しけ単」と略されるブツだった。ほとんどの生徒が持っていた気がする。俺もこの単語集を使って、真剣に語彙を増やそうと思った時期もあったのだが、開いて数ページ目に、「代数学algebra」と「幾何学geometry」といった単語が載っていて、「どこでこんな単語使うねん!」と、使用を放棄した記憶がある。

それ以来は、ひたすら長文や例文を読むことで語彙を増やしていった気がする。今よりもかなり多くの語彙がインプットされていた気がする。受験終了後にアウトプットされるのも早かったが・・・。

やはり、単語は文章で覚えるものだ! と思っていたのだが、最近の英単語集の流行りは、「システム英単」や、「速読英単」といわれるもので、これらは例文が多く載せられていて、使用場面の適切な用例に紙面が多く割かれている。学習教材は、それなりに進化していることを感じている。

進化はしたものの、例文の文例はあまりに硬質だ。「主に親切な定員がいるからという理由で、地元の人はこの店をひいきにしている。」といったタイプの例文が強引に組み込まれているのだが、人生で何回使う表現か疑問だ。文節関係が硬い・・・。燃えろ!

そんなことを思っていたのだが、3年ほど前からだろうか? 一部書店には(今では多くの書店)、「Moetan」なるものが並びだした。「萌単」である。気にはなるものの、わざわざ定価で買う気はなかったので、ほうっておいたのだが、今日、古本屋で105円棚にあったのを見つけて購入してしまった。

ピノコを萌えアニメタッチにしたような女の子の、高校生活を巡る英文が書かれていて、その中で使われている受験頻出単語を章ごとにまとめている体裁の本だ。文章を読んだ後で、その単語を解説するという構成は、個人的に良くできていると思う。英文自体も難しくなく、内容も悪くない。

俺が、この本にさらに魅かれたのは、例文の秀逸さだ。無断で数例を引用する。

1. Sometimes people say,"You look like a primary schooler", And this is the best compliment for him.

2. In the film version of the serial, the bully suddenly turns into a close friend.

3. In maid parlors, customers can't give orders, though they are the masters of the waitresses.

4. The phantom won an election and became the governor of Tokyo.

和訳も載せる。
① 「見た目が小学生」とは彼にとっての最大限の賛辞である。
② そのいじめっ子は、映画版では突然、心の友に変わる。
③ メイド喫茶では、自分はご主人様だが、命令はできない。
④ 怪人が選挙に勝ち、都知事になってしまった。

これらは、たった2ページ内での引用だ。schooler といった強引で口語的な表記もあるが、受験頻出の熟語も散りばめてある。よく出来ていると思う。萌える風刺だ。

他にも、「Bボタンを連打し、怪物の進化をキャンセルした。」とか、「その宇宙人は死にそうになるたびに戦闘力が上がる。」といったゲーマー的萌え方から、「カツ丼欲しさに自白してしまった。」といった刑事萌え、「悪役のほとんどは主人公より優位に立つと油断する。」といった、マーフィー的萌えまで、様々な萌え例文が散りばめられている。面白い。

「萌え」という言葉だが、世の中にデビューしだした時から、俺はすごいセンスの言葉だと思った。好き嫌いでいうと、嫌いであり、普段、使う使わないでいうと、使わないのだが、誰もが感じていて表現出来なかった匂いと現象と思想と色彩を、これほど見事に感じを当て込んだ言葉は、現代語では少ないような気がする。ネーミングセンスには脱帽である。

この、俺が好きな「Moetan」であるが、好きだからといって、高校生にはあまり使ってほしくない気持ちがある。18禁にすべきだとも思う。

「萌え」なる言葉を、語感を含めて味わう基礎言語を習得してからの方が、数倍味わえると思うからである。数日前のブログでも、言語教育についてふれたが、硬質な言葉の習得があった上で、柔らかな言葉が加味されるのはいいのだが、ハードが形成されないうちに、ソフトを乗っけると、言語的システム障害を起こしてしまう気がするのだ。

それにだ、上記のような文例の面白さは、大人になってから味わうとブラック加減がわかるが、ホワイティーなキッズが、何も高校生時分から、この感覚を身につける必要はないような気がするのだ。下手に触れると、「萌える」前に「燃える」運命になる気がする。「アレゲ」な人物の養成促進はいらない。大人の傲慢かもしれないが、少なくとも、俺が高校時代に「Moetan」がなかったことは、幸いに思う。

そうだ、「萌える」なんて言葉は、1度具現化されて体内に取り込まれたなら、何も繰り返し取り出す必要はない言葉の気がする。言葉で言い表せた爽快感を1度味わい、その後は燃やしてしまうのが、この言葉の正しい生き様の気がする。

だから、この秀逸な単語集を含む読み物が、タイトルを変え、成人指定書籍として再刊されることを願っている。

「萌える」という言葉と俺の関わりあいは今日で終わりだ。明日からは、この書籍の中にある風刺だけを楽しみ、言葉と文章の面白さを楽しみたい。1度萌えて燃やす。時間がたったら、新しい言葉がまた、萌芽する。そのとき、その語感を味わおう。

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