2008年11月13日木曜日

白衣の天使

明日はようやく縫っている白目の抜糸だ。黒目の下に髪の毛より細い黒糸があるのだが、
それがなくなり、ようやく乱視傾向も治まり、コンタクトの装着も可能になる。目の出血は下部にまだあるが、それも抜糸後治まるものと思われる。

退院から2週間、緑内障手術からは3週間が過ぎ、ようやく恐怖もおさまってきて、少し振り返られるようになった。明日の抜糸後の検診で眼圧がどうなっているかはわからないが、自覚症状、目を軽く押さえた時の感じでは特に眼圧が高いような気はしない。

明日は抜糸前に目に麻酔注射をするので、久々の恐怖を味わうことになるが、なんとか耐えられるだけの免疫ができてきている気がする。

入院から退院までの日々、白衣の天使との交流を少し振り返る。

入院して翌日が右目の手術だったのだが、手術前の検査は非常に多岐にわたるものであり、1日仕事だった。そのほとんどは、双眼鏡みたいな検査機器に目をあてて、写真を取られるものであり、たいして恐怖はなかった。俺は翌日の手術の恐怖だけを考えて、検査自体にはかなり油断していた。

検査の1つに、目と鼻と口をつなぐ所が詰まっていないか、正常につながっているかを確かめるものがあった。目から食塩水を流し込み、口の中に味覚としてしょっぱさを感じるかを確認するものなのであるが、俺はこの検査に度肝を抜かれた。第一次恐怖であった。

採血や点滴をする外来処置室内であったので、俺はかなり油断していた。すごく優しそうな若い看護婦、ちょうど虫も殺せぬような白衣の天使が俺をいすに座らせた。

「は~い、しっかり目を開けておいてくださいね~。ちょっとチクっとしますよ~。」とソフトな口調で言うやいなや、俺の目のほうに向かって針がくる。

「なんやなんや?? 注射針やんけ!! な、何するねん!カチコミかい!」と思った時には目にしっかり針が刺されていた。鼻側の方に注射針が命中し、俺の目の前には液体の入ったプラスチックの筒が、どか~~~んとある。 「今、刺さってる・・・。」
恐怖を感じる前触れがなかったので余計に瞬間的パニックになった。すぐに食塩水が俺の口の奥に流れ、「しょっぱいですか?」と堕天使の声が聞こえる。「はい、すごく。」と俺が答えると、針が抜かれた。生涯で一番塩辛い食塩水であった。

かわいい顔して、人の目に針を刺すことが特殊でない看護婦・・・、慣れとは怖いものだ。すごい職業だと思う。前触れなしに処してくれたのは、単なる慣れか、むやみに恐怖を感じさせないための配慮か?? どちらにしても看護婦という仕事の凄まじさを体感する。

「俺も難儀やが、あんたも難儀やな~。ご苦労察します。」と心でつぶやいている間に、その看護婦は、次の患者をいすに座らせ、注射針を用意していた。「目刺し部隊か、お前は!」と突っ込みながらも、俺を処遇してくれた看護婦に心で御礼を言う。「お世話になりました。もっと違った形で出会いたかったです。」

入院病棟に行ってからも、看護婦さんには本当にお世話になった。物理的なケアだけでなく、病んだ気持ちに配慮した心的ケアができる素晴らしき看護婦さんが多く、俺はWエンジンじゃないが、「ほれてまうやろ~」と心で自虐した。手術前夜である。

たくさんいる看護婦さんだが、各患者それぞれに担当看護婦というのが割り当てられていて、俺の担当看護婦は、20代前半ぐらいの若い看護婦だった。「担当させてもらいます、~~と言います。何でも遠慮なく言ってくださいね。」と優しく言う。

ここまでは完璧だった。だが、こやつ、少々うざかった。俺をガキ扱いしているというか、自意識過剰というか、手術当日にこんなことを言う。

「もうすぐ手術のお迎えが来ますので待っていてくださいね。手術頑張ってくださいね。私は残念ながら一緒に手術室には行けなくて、別の看護婦さんが一緒に行ってくれますが、言うことをよく聞いて、元気で帰ってきてくださいね。」と言う。

「残念」、「一緒に行く」、「言うことを聞いて」という言葉に自意識過剰を感じた。

「こっちは、目~切られようとしとんや! お前が一緒に来ようが来まいが、関係あるか!「言うこと聞いて」って、ドクターに反抗するボケがおるかい! 俺は大人じゃ! でもこわいんじゃい!話しかけんで瞑想させてくれ!」と心で毒づいた。

また、「元気で帰ってきて」の言葉には、空恐ろしさを感じた。

「僕の手術、そんなに怖いの??  元気で帰れないこともあるの?? 教えて>白衣の君!」

悪気があるわけではないのだが、ちょっと違うやろ? と思いながら、俺は心で「気~つけなはれや!」と毒づいた。

若い看護婦さんが駄目というわけではない。術後にほとんど見えない俺の手を誘導して厠に連れて行ってくれたり、着替えや洗髪もしてくれたり、そしてそれが実に心ある対応の若い看護婦もいた。助かったし感謝もしている。

だが、全般的に見れば、ベテランのおばちゃん看護婦の接し方のほうが、マニュアル化できない部分で何かほっとしたし、快適だった。「過保護にしすぎず、保護をしっかりする」という、絶妙の接し方であった。過保護にされると、病状が重いような気になって滅入る。やはりこの世界も年季がものを言うのであろう。若い看護婦には、邁進して立派なおばちゃん看護婦になってもらいたいものだ。

退院当日は、看護婦三人がエレベーターまでお見送りしてくれた。囚人が出所する際に付き添う刑務官のようだった。看護婦さんの「お大事になさってください。さようなら」というお見送りの言葉が、「もうここには戻ってくるなよ!」という刑務官のような響きに感じた。

今はシャバにいる。看護婦さんと、出来ることならば関わらない人生を送りたいものだ。まだまだ未熟な部分を持った看護婦もいたが、白衣の天使は確かに存在した。天使に感謝する。

2 件のコメント:

オオタ(アルカリムッシュ) さんのコメント...

「白目の抜糸」って、すごい言葉やな。

入院してると、看護師さんの何気なく温かいひと言や、何気なく冷たいひと言が、身に染みますな。

シャバも大変やけど、お互い頑張りましょう。ご無事で何より。

管理猿まえけん さんのコメント...

>オオタ氏

ありがとう。ほんま白衣の天使の何気ない言葉は沁みます。

白目の抜糸を通して、俺は新しい言語感覚を手に入れた気がします。ポルターガイスティックでオーメンな曲が出来る気がします(笑)

お気遣いに感謝します。