2009年2月20日金曜日

ガススタの支持率

昔からガソリンスタンドに入るのが嫌いだった。給油時にガソリンの匂いを嗅ぐのだけが楽しみだったが、店員との交流が嫌いだった。

ガソリンスタンドに関わらず、態度の悪い店員に対しては、超ドSの態度で臨める俺だが、態度の良い店員には、めっぽう弱い。超従順な犬のようになってしまう。ガソリンスタンドの店員は、昔から態度が良い人が多い。研修システムがしっかりしているのだろう。愛想の悪い店員は皆無といってもいいぐらいだ。

「いらっしゃいませ! レギュラー現金満タンで、かしこまりました。
(他のスタッフに向かって)レギュラー満タン入りま~す。
(他のスタッフ一同) レギュラー満タン、ありがとうございま~す。」

その間にも、「オーライ、オーライ!」やら、「ありがとうございました。」の声が、あちこちのレーンで快活に響く。俺についたスタッフは、一生懸命窓を拭いて、室内のごみを持っていってくれる。室内拭き用の雑巾もくれる。実に感じがよい。ここまでは、やや窮屈ながらも、苦手ではない。だが、ここから営業攻撃が始まる。

「お客様、今日は点検の方はいかがですか?」とにこやかスマイルで話しかけてくる。
「う、うん、頼んじゃおうかな?」となぜか標準語で、心を開いてしまう。

しばらくすると、「お客様、燃費がよくなる液体を今、特別価格なんですけどいかがですか? また、ガソリンタンクの水抜き剤も、これから寒くなってきますので、入れておかれたほうがいいかと思いますが・・・。」と来るのが定番だ。

実に態度が良い店員の場合、俺は断われない。

「そうなの~? わかった。ぜ~~んぶ入れちゃって!」と成金おやじのような口調で快諾してしまう。オイル交換ごとに言われるがまま、エレメントを変え続けたこともある。確実にかもにされている。

ガソリン給油で入って、ガソリン満タン1,5倍~2,5倍くらいの金額を払って出て行くことが非常に多かった。

だから、最近のセルフスタンドの増加は、俺にとって非常にありがたい。好きなガソリンの香りを間近で嗅げるし、店員からの営業を受けることもない。必要な分量のガソリンをを、鼻腔を開けてゆっくり給油できる。だから、最近はむしろ給油が好きであったくらいだ。小分けにして、何回も給油に行きたいくらいだった。

ところが、最近、立て続けに営業を食らう。ガソリンを入れ終わる時期を見計らって、俺の視界に忍び寄るスタッフがいる。目を合わさず、急いでいるふりをして逃げようとするのだが、確実に俺に近づいてくる。

「お客様、ただいま、非常にお得なカード会員を募集しているのですが、いかがですか?」との営業だ。

俺はポイントカードや会員カードの管理が下手くそである。カードを作っても、カードを提示する時には、財布のどこにあるかもわからないので、無駄に財布が厚くなるだけだ。だから、この手の営業には、断固として、「え~、たまたまここを通りかかっただけで、あんまり来ないんですよね~。」といった感じで逃げるようにしている。最近では逃げ口上も上手くなった。「カード嫌いでんねん。」とか平気で言えるようにもなってきた。

一度でも営業をかけられた店には、よほどのことがない限りリピーターしないようになった。やっぱり潜在的に営業に弱い俺を恐れているのだ。「あんまり来ない」と言ってしまったことを、自意識過剰で守ろうとするアホな俺がいる。特定のスタンドへの支持率が低い。
そうなると、いくら多くのセルフスタンドがあるといっても、段々行くところが少なくなってくる。セルフ給油ジプシ~状態だ。

今日も初めてのセルフスタンドに行った。だが、店員は手ごわかった。新種のパターンに戸惑った。

鼻腔を広げる俺の元に、いつものように忍び寄る影・・・。「奴が来る。」俺は身構えて、空を見上げていた。すると、2メートル以上先から、「お客様~!」と声をかけてくるナオンがいた。「またカードかよ。」と思って、俺はいつもの口上を先制攻撃しようとしたら、

「麻生政権の目玉、「高速どこまでも1000円のサービス」、ご存知ですか? あれってETC専用なんですよね~。ただいま当店では、特別価格でETCのキャンペーンしているのですが、いかがですか?」と言ってくる。

ETCだかECCだかBCGだか知らないが、ニコニコ現金払いが身上の家柄の婿たる俺が、料金後払いなるシステムに組み込まれるわけにはいかない。やんわりと、勇気を出して断わった。それでもだいぶ食いつかれた。パンフをたくさんもらった。泣きそうな目で、「嫁に聞いてみます。」と言って逃げた。

店員は、懇願調の俺に打たれたのだろう、「わかりました。麻生政権もどうなるかわからないですしね。お時間かけてすみませんでした。また、ご検討よろしくお願いします。」と丁寧な言葉をかけてくれ、俺がガソリンスタンド内を後にするまで、ずっとお見送りしてくれた。

車を走らせながら、「よく出来た店員やんけ! なかなかこ洒落た事を言いやがる。 でも、ふ~あぶねえ!買わされるところだった。 強くなったぜ、俺!」と得意気入り交じった安堵感に浸っていた。 それにしても、まさか、ガソリンスタンドで、「麻生政権」なる言葉を聞くとは思っていなかった。なかなかやるぜ、あのナオン!と感心すらしていた。贔屓にしちゃおうかな?とも思っていた。今日のナオンぐらいなら、従順な俺でも大丈夫という確信があった。

快調に車を走らせていると、何だか違和感があった。いつもセルフスタンドで行う、一連の流れが、何か欠けていたような気がする。俺は記憶を辿る。

「給油を終えて・・・・、キャップ閉めたやろ? その後いつもどうしてたっけ??????? レシート出てきてバーコード・・・・・。あ!」

思いだした。釣銭精算を済ましていなかった。給油してすぐ立ち去った。お見送りに感動している場合ではない。俺はあのナオンに腹が立った。お見送りする以前に、わての精算忘れに気付かんかい! 糞アマ! 

いきりたって、国道を非合法なダイナマイトUターンして、猛スピードでガソリンスタンドにカチコミをかけた。幸いにしてレシートがまだ機械でぶ~らぶ~らと風になびいていた。俺は精算機で942円を受け取り、一発メンチかましたろ!と思って、スタッフ詰め所を見た。

さっきのナオンがいた。「あら、あ、お釣り・・・・ありました? よかったですね~。」と言いやがる。

もう、超ドMの俺はいない。超ドSの俺が牙をむいた。
 
「よかっただあ~~~~?????  くお~ら! 糞アマ! おどれ、麻生政権どうのこうのと、ねぶたいこと抜かす前に、客の釣銭精算忘れぐらいチェックしたらんかい! 何が「ありました?」じゃ! だぼ! 他人事かい! ETCの前にTPO考えて営業しろ、ぼけ! 」みたいな、あらん限りの罵声を浴びせた。

営業要因以外にも、こうしてまた、いきつけのセルフスタンドを無くしていく俺であった。支持率下がる一方だ・・・。

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