2009年2月17日火曜日

スケールのでかい少女

うちの生徒に「大器だ!」と感じる中1の女生徒がいる。学校の点数は超小物!であり、周囲も親も、「この子は苦労するわ~。行ける高校があったらどこでもいい。」と、えらく否定的な見方をするのであるが、俺の眼には、初めて会うタイプの大器にしか見えない。

彼女はすごい! 暗記力は興味あることならば、恐ろしくあるし、集中した時の入り方もすごい! 受験において難となるのは、その集中力持続時間が幼児並みであることだが、それさえクリアすれば、本当の天才だと思える時が多々ある。

足音が大きい。真冬でも短パンで生活している。吹奏楽部でドラムを担当している。鼻歌もよく歌う。学校では、目を開けながら眠りながら鼻歌を歌い、自分の声で目が覚めることがよくあるらしい。よく周囲からドン引きされるらしいが、ドン引きされることを気にしていないようだ。

俺は彼女に、英語と国語を教えている。

彼女は「戦う」という言葉を言うのに、5かみする。「たかたう? う~ん、たたたう? う~ん、たかたたた・・・・ あれ~~~、たかたった・・・・・、あ、わかった、たたかかうだ!」とさ迷ってから、「戦う」が言える。

言語知識に難があるのではない。むしろ、言葉はよく知っている。ただ、独自の音感で生きている。

学校の英語のテストで、「下線部 that はどういう意味ですか。」というのがあった。
よくあるタイプの問題で、英語における、くり返しを避けるための指示代名詞のthat である。解答は中1内容では、その直前に出てきた名詞1語(「本」とか「犬」とか)で済む。節、句を問うようなレベルではない。いたって簡単な問題だ。

この問題において、彼女は、thatを「それ、あれ」と答えて失点していた。迷うことなき即答だったらしい。汚れ無き素直さを持った者だけができる解答だ。俺はしびれた。

言語読解に難があるのではない。彼女の言い分は、「下線部 that はどういう意味ですか って聞かれたもん!」だった。彼女の言い分は正しい。出題者の国語能力を問うべきだと思う。「下線部thatが指すものを答えなさい。」にするべきだったのだ。彼女に軍配を上げたい。

上記のようなことは頻繁にあって、俺はその都度、心が洗われるのだが、天才の片鱗を最も感じたのは、以下の事件だ。

彼女は、右と左が、未だにどっちがどっちか忘れるらしい。国語の時間に地図を渡して、「言葉だけで道案内をしなさい。」というミッションを課した時の事だった。

当然、「右」「左」という言葉は、使わざるを得ないのだが、俺は彼女のプリントを見ていて、彼女が素で右、左を間違えていることに気づいた。聞いてみると、「そうなん、まだよくわかってない。」と言う。堂々と、恥じることなく・・・スケールがでかい!

俺の心は再び洗濯され、限りなく白くなった。すばらしい。

俺は彼女に言った。「~さんが今、シャーペン持っている手が右、逆が左やで。」

彼女は納得した。そして、道案内に再び取り組みだした。何度も右折、左折を繰り返し、斜め道もカーブもある地図を作成したので、みんなそれなりに苦労している。「右、左」以外は、出来るだけ同じ表現を繰り返さないようにとの指示を与えているので、みんな苦労している。「道なり」といった言葉を知らないキッズが、「道なり」を他の表現で代用するのに苦労していた。

しかし、彼女は別次元に行っていた。

「本屋さんの角を、ほくろがあるほうに曲がってください。」と書いている。素も素だ。真面目だ。彼女の左頬にほくろがあった。ミッションは確かに左で合っていた。素敵である。

その他にも、「ゲームの音が聞こえるほうに曲がってください(ゲームセンターを確かに地図に記していた)。」という秀逸な表現もあった。

とどめがあった。左の方向に進むミッションでのことだ。

彼女は地図を見ながら、右手で方向をなぞっている。最後のミッションに向けて、彼女は右手を左方向にした。

俺は、すごく期待した。「シャーペン持つ手が右」という、俺の教えを、もしかしたら????と思っていた。

見事であった。彼女は、左方向にかざした右手に従って、その方向を、「右」と書いた。

俺の心は漂白剤をかけられたかのようであった。

思考ベクトルが一般とはずれているが、暗記力がすごい彼女なので、受験学年になったら、それなりの高校に行くだけの点数は取ると思う。

だが、彼女には、受験勉強なんかよりも、もっと彼女の興味をひく世界を並べて示してあげ、興味が向いた分野に、興味のおもむくままに突き進ませてあげたいと思う。本当の天才を受験勉強ごときのスケールが包めるわけがないと思った。

とにかくスケールがでかい。kitchenを「キットチェン」と読む。Chineseはジャニーズと似ているから覚えたらしい。普通の解答は少ない。それもひねくれているわけではなく、何かの能力が水準値に達していないわけではないと思う。素なのだ。

提出物の約束はしっかり守る。挨拶ができる。よく食べよく眠る。あたり前のことができた上での、このスケール感・・・。彼女がこじんまりしないように、節に願っている。親御さんがうらやましい。

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