2008年8月9日土曜日

夜の虫

レンタルビデオ屋といえば、活況を呈しているのは、ツタヤ、ゲオといった全国的フランチャイズ展開をしているところだけだろう。それ以外の小規模店舗は、軒並み淘汰されてしまったのが現状だと思う。

わが町でも、10年ほど前には数店舗の個人レンタル屋があったが、その当時から凋落ぶりは明らかで、アダルト色を強くしたりして何とか延命していたが、既に無くなってしまっている。

こんな状況の中、個人商店であるにも関わらず、今でも営業を続けているだけでなく流行っている店がある。駐車場には車が常に一杯であり、俺はずっとその店が気になっていた。

きっと、他所にはないような渋い品揃えがあるのだろう? 専門性を高めて、大型店との差別化を図っているに違いない! 専門性がアダルトに特化したものである可能性が高いが、今のレンタル市場で商いを継続している元気店舗、何か素晴らしい秘密があるに違いない! そう思っていた。

先日、初めてその店に行くことが出来た。相変わらず駐車場は一杯であった。どうも、ヤンキー風味の車が多いことが気になっていた。

店内に入った。ぱっと見わたすところ、何の変哲もないレンタルビデオ屋である。棚の整理が細かくされていることは目についたが、それだけで活況を呈するようにも思わない。特にアダルト色が強いわけでもない。

店内の奥に入っていった。すると、明るい店内の奥の一角に、照明が落とされた別のスペースがあった。機械音が賑やかに聞こえ、人であふれている。

20台並べられたスロットマシーンにびっしりと人が座り、後ろで順番を待っている奴もいる。全員、眼光が鋭いチンピラで、入ってきた俺にきっちりメンチをきってくる。

スロットマシーンは、今ではパチンコ屋で見かけることが出来ない、規制が入る前のものだ。それを黙々と打ち込むチンピラ、チンピラ以外は40代以上のおっさんばかりだ。

「なんなんだ? この邪悪な雰囲気は?」 俺は気持ち悪くなって店外に出た。

スロットマシーンは、金がかかるから夢中になれるのであって、ゲームとして必死で楽しめるものには思えない。それとも、何か非合法な換金システムがあって、それは一見者には知らされていないだけなのだろうか?

22時頃に行ったのだが、その店は24時間営業だった。きっと彼らは深夜までスロットマシーンの前でエナジーを費やすのだろう。

色んな価値観があるが、何たる時間の浪費! たまたまゲームセンターに訪れてスロットマシーンで楽しむという、娯楽的な関わり方とは明らかに違う。明らかに彼らの日常の1コマに、ゲームセンターでのスロットマシーンが入っているのだと思う。

昔、夜になると集まってくるチンピラの集会場は、コンビニ前だった。しかし、営業妨害要素が強く、経済界からの陳情も多かったのだろう。警察の取締りが機能して、今じゃコンビニ前でのヤンキーミーティングをほとんど見かけなくなった。

俺は昔、コンビニに夜になると集まる彼らのことを「夜の虫」という曲で揶揄した。揶揄していたつもりだが、何となく無目的な彼らに対する憐憫と親愛の念も入っていた気がする。嫌いでなかった。人生の一時期、何をするでもなく、無為に夜更かしする彼らの気持ちがわからないでもなかった。

夜に明かりの元に集い、朝方に得体の知れない充足感と焦燥感とを両者抱えながら家路に帰る虫たち、集い方は違えど、俺も立派な「夜の虫」であった気がする。好きな曲だった。

ところが、今の時代の「夜の虫」は、レンタルビデオ屋の片隅にいた。時代の変遷が虫の集い場にも変化を与えたようだ。

コンビニ前にたむろしていた昔の虫たちと違い、今の虫たちには、正直、忌諱感を覚えるだけだった。

「夜の虫たちはどこに消えたの 同じ寝顔で今頃眠っている また今夜 きっときっと会えるね 僕は明るく笑顔で迎えるからね」

夜の虫にたいする感情が変わった今、最後の歌詞は、「僕は明るく笑顔で無視するからね」に変化するだろう。

何だか悲しい光景だった。夜の虫のばかばか!

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