2008年9月21日日曜日

へたれな釣り人

今朝方は肌寒かった。すっかり秋が存在感を増してきた。この時期になるとわが家から車で10分ほどの海辺には、小あじとサヨリがうじゃうじゃ寄ってくる。毎年、釣りに行きたくなる時節である。

小学生の時は釣りが好きで、好きでたまらなかった。毎月の小遣いやお年玉は釣り具を買うか、Nゲージの鉄道模型を買うかに費やしていた。

近くに海がなかったので、ひたすら湖沼か川での釣りだった。海釣りが出来る環境が身近になかったので、海で釣ることは大人になってからの楽しみにしていた。

釣りキチ三平を読み漁り、仕掛け作りにこっては、休みごとに釣りを楽しんだ。自転車で行ける距離には山田池というのがあって、今じゃ釣りは禁止されているのだと思うが、昔は許されていた。ここではブラックバス狙いでブルーギルまみれの釣果を楽しんだ。

バスに揺られての淀川、電車に乗っての四条畷室池も行ったが、定期的な交通費の捻出は困難であり、自転車で、くろんど池やら用水やらため池やら、近所の行ける所は全て行った。

この時期の俺は、釣り人としての致命的な自己の欠陥に気がつき悩んでいた。生餌が怖いのだ。ミミズごときでも俺を威嚇するには十分であり、海釣りのイソメなんかは、見ただけでも俺にとってはエイリアンであった。

友人には俺のへたれぶりを悟られないように、独自の理論で練り餌をこだわって使い続けた。マッシュポテト?だったか白く良い匂いがする練りえを一番に好み、次にスイミーを好んだ。さなぎ子はさなぎが怖いので避けた。臭いも鼻を破壊するには十分の、生類の生臭さがあって嫌いだった。

生餌を使う友人との釣果の差は歴然だった。練り餌を投げ釣りで使うと、練り方によっては、投げた瞬間に針からばらけてしまう。それも知らずに餌のついていない針を垂らして浮きを見ている光景はこっけいだったろう。

あまりに釣果が出ないので、俺は勇気を出して、釣り友の和彦君に、自己のへたれぶりを打ちあけた。

「一生のお願いがあるねん。ミミズ付けてくれへん?」

和彦君はいい奴だった。俺のへたれぶりを暴かずに、喜んでつけてくれた。極太ミミズの胴体をブチっとちぎり、俺の針に美味しそう(魚基準)につけてくれた。針の先には尻尾をひらひらとさせ、生きているかのような見事な餌付けだった。

胴体から下だけがあって頭はないわけだから、ミミズは確実に死んでいるのだが、のっぺらぼうのミミズ君は水流でひらひらと生命力を演出してくれたのだろう。釣果はよかった。

練り餌では、百科事典にも載っていないようなマニアックなミクロ魚ばかりの釣果だったが、生餌にしてからというもの、釣れる魚のサイズも大きくなり、ヘラブナなど立派に名前を冠された魚を釣り上げることが出来るようになった。といっても20センチくらいまでだったが、俺には十分大物だった。

俺は調子にのった。道糸、ハリス、針のサイズを大きくし、釣竿も太くした。完全なる大物狙いにしたのだ。

場所は淀川、和彦君と一緒に朝から行き、俺は針に極太ミミズを数匹まとめて付けてくれるように頼んだ。

和彦君は、「いっぱい付けたらいいっちゅうもんでもないで~」と言ったが、俺は、「かまわん。付けなさい。」とこの頃は既に餌付けの感謝を忘れ、偉そうに命令していた。

自己の器を考慮せず、偉そうに餌を付けさせたことで罰があたったのだろう。

生涯、初めて感じるヒキがあった。手網を持っていない俺は、興奮と焦りの中でリールをひたすらまいた。俺のデカ針が、がっしりと魚の下あごに命中していたのだろう。不思議とばれる(かかった魚が針から外れてしまうこと)心配はしていなかった。

川面から現れたのは、50センチ以上の雷魚だった。俺は生まれて初めて雷魚を見たのだが、鯰か蛇のように思った。でかさに圧倒され、竿を放り出したいくらい動揺した。川面を離れ空中で暴れまわる雷魚、俺は引き寄せることも怖くて出来なかった。おろおろしていると、糸がぶらんぶらんとなって、雷魚が俺の顔面に当たった。

俺は気絶に近い状態で泣き出した。竿をなげた。地面では雷魚が暴れまわっていた。

その後どうしたのか覚えていないのだが、夕焼け空を見た記憶があるので、その後も気を取り直して釣りを続けたのだと思う。

だが、この日を境に、俺は生餌での釣りをやめ、ルアーや毛ばりの疑似餌釣りに精を出すようになった。湖でのブラックバス釣りや、渓流でのニジマス、岩魚釣りに夢中になりだした。

今でも生餌に対する、へたれぶりは治っていない。仮に大きな魚が釣れたとしても、俺はその活き活きとした暴れ具合に大人泣きをしかねない、高純度のへたれを持っている。

だから、近所の防波堤での小あじ、サヨリといった、喧嘩したら勝てそうなサイズの魚釣りだけで十分なのだ。ピースフルなのだ。

海釣りを初めてからも恐怖の思い出はたくさんある。また吐き出して、へたれ供養をしたいと思う。

0 件のコメント: