2008年6月12日木曜日

異文化理解

よく高校受験の英文のトピックになるテーマが、「異文化理解」だ。日本人と外国人との間には文化的な違いがある。それぞれを認め合いながら、お互いに分かり合おうとする姿勢が大事だといった主旨の英文が、ネタを変えながら全国的に垂れ流される。

ところが、このトピックに登場する外国人というのは、90パーセントが欧米人、10パーセントが中国の人たちである。
宗教でいうと、プロテスタント、カトリックを総まとめにしたキリスト教、もしくは仏教文化の人たちだけである。イスラム教徒、ヒンズー教徒との異文化交流への啓蒙は、英文ではまだなされていない。

越中で見かける外国人は、欧米人は語学講師などの仕事に携わる人たちだけで、超少数であり、多いのは、ロシア人、パキスタン人、ブラジル人、中国人だ。
飛び交う言語に英語が交じることは稀である。

人種差別意識はないのだが、外見の印象に起因する偏見はどこかにあるのだろう。町で見かけるロシア人、パキスタン人に対しては、どこか歪んだ色眼鏡で見てしまう。

国道沿いに数キロに渡って、中古車輸出業者のヤードが並んでいる。パキスタン人などが、日本では使い物にならなくなった自動車を、ロシア人相手に商売しているのだ。
ロシア語の看板がずらっと並び、ある種異国情緒あふれる街道だ。

日本からロシアへの航路定期便が出ている港は数少ない。その1つが越中伏木にある。
伏木に着いた船から、たくさんのロシア人が、国道沿いの中古車ショップに向かう。
商談が成立した車は、伏木港から積まれ、ロシアで販売される。

この、車をめぐるロシア人の行動に日本人が関わるケースは少ない。一部、対ロシアへの車輸出を生業にしておられる日本人もいるが、大多数はパキスタン人が中心であるように思う。

車街道沿いには、自転車に乗ったロシア人がたくさんいる。たまたま、見かけたロシア人の自転車には、「~中学」と書いたシールが貼ってあった。

「絶対通学してへんやん! 盗んでるやん! 」という言葉と共に、それ以来、どうもロシア人を見かけると、いけないとは思いながらも「自転車泥棒集団」としてレッテルを貼ってしまう。失礼極まりないのだが、反省していても、実際に自転車泥棒で捕まったロシア人の報道なんかを地方記事で見ると、再び偏見を抱いてしまう。

中古車は売っているパキスタン人に対しても偏見はある。異邦人という環境にも関わらず、真面目に商売をされ、富も築きあげられた立派な方が多くいおられるのだとは思うのだが、偏見は拭いきれない。

ベンツ、セルシオといった高級車が盗難され、富山の港からロシアに流れていたといった犯罪報道がなされるもんだから、業界全体を色眼鏡で見てしまう。
展示してある車全体が盗難車に思えてしまう。

イスラム教文化の人たちへの偏見は特に高い。ウサマ君があのテロをして以来、俺だけではないはずだ。ひげ面の中東人が飛行機に乗って、トイレに行く度に、どきっとしている人も多いはずだ。

国道沿いのコンビニ跡地に、モスクがある。最近の新聞報道によると、正式に宗教法人申請を行ったそうだ。受理されるかどうかはわからないが、信者が祈りを捧げたりする場面が、ガラス張りなので外からはっきり見える。

以前、このモスク前でコーランが燃やされる事件があり、イスラム教徒の猛烈な怒りが、ちょっとした暴動になったこともあった。
信仰心のベクトルが、日本人にはないものだから、ついつい、表層的な現象だけに目を奪われる。そして、ついつい、たまたま知った、もしくは目にしたその光景を、イスラム教徒全体の標準と見てしまう。

これではいかんと思う。異文化理解と口で言うのは簡単だが、先入観を排除しなければ、真の理解は成就しない。

どこの国籍であろうが、どんな宗派であろうが、1対1の関係で抱く個人的な感情だけに忠実であるべきで、フィルターを間に挟むべきではない。そのためには先入観を排除する努力をしなければならない。

そんな思いを抱いて、国道を走っていた。偏見を反省して、まっさらな気持ちで彼らを見よう! それが異文化理解の第一歩だ! 成長した俺の清い眼差しがそこにはあった。

次から次へと現れる対ロシア中古車輸出会社の看板とヤード・・・。
今の俺に偏見はない。今までは呪文の文句のように見えたロシア語もなんだか愛しく思える。硬質な字体がすこし軟化したようにも思えるから不思議だ。

1つ1つのロシア語の字面を目で追いながら、俺は初めて微笑んだ。彼らが盗難車を売っている? No way!
 彼らは立派な商人だ! 今までごめん、何とかビッチ君、そして、ウサマちっくな名前の人たち・・・。 俺は懺悔心に至った自分の気持ちの清さに酔っていた。

国道沿いに差し込む日差し、俺は中東方面の空を眺めた。
モスクでは、イスラム教徒はが祈りを捧げていた。俺は懺悔心から、昼食ラマダンをした。せめてもの償いだ。

その時、目に飛び込む看板があった。珍しく日本語で書かれていた。

「中古車販売 アリババ」

やっぱりあかん! 今までの清い眼差しにすぐフィルターがかぶさった。「やっぱ盗賊やん!」

異文化理解は困難を極める。

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