2008年1月14日月曜日

星を見る

今朝は寒かった。パジャマの下にパッチを履いて、寝るときもルームソックスを履いているというのに、寒くて目が覚めた。布団の縦と横が逆になっていて、短いほうが俺の体に沿って、俺の体を覆っていた。膝から下は覆い無しである。そりゃ寒い。

俺は寝ている時は乱暴者だ。激しく寝具のシルエットを変える。就眠まえの頭と足部分の布団が、朝起きたら、上下逆になっているのが普通だ。もちろん表裏の反転もしっかりしている。俺の布団の頭部分には、嫁が涎掛けを付けているのだが、それが朝には足にある。映像をいつか撮って、動物学的に分析したいと思っている。

越中の寒さが本格化してきた。こうでなくてはならない。肌を刺すような冷え込みの日は、空気が澄んでいる。非常に空気がおいしい。息がしやすい。夜には星が、プラネタリウムにように見える。怖いほどである。

今日は久方ぶりに、帰りの途上、車を停めて空を見た。別に星を見て、感激の涙を流すには、俺の精神は経年劣化している。でもただ、何となく見たくなるのだ。引き込まれそうな夜の空に描かれる点画を見ると、何か、清いことをしているような気がするのだ。

漆黒の空に描かれる幾何学的な点在の全景・・・。ずっと見ていると、天上から人が降りてきて、天に連れ戻されるかぐや姫の話が浮かぶ。少し怖くなった。

車のハザードをたき、タバコを吸いながら見ていたのだが、5分で飽きた。夜の堤防の道で車を停めて、タバコをふかしている奴は、ただのニコ中であるが、星を見ていることで、何か自分がとても、チックロマンな奴に思えるから不思議だ。通り過ぎていく車の奴が、俺の方に未確認物体を見るような流し目を送り、通り過ぎる。UFOならぬ、UWAだ。プロレス団体ではない。未確認歩行動物だ。

俺は、天体に対する知識が無いに等しい。俺が知っているのはオリオン君だけだ。奴らは、笑えるくらい整列していやがる。3つの横並びの奴がオリオンの一味だと思うのだが、3つの奴の整列感と言ったら、軍隊顔負けである。

よく見ると、3匹の兵隊は、周囲を囲まれている。四隅を監視されている3匹の荒くれ者のように見えた。「かわいいの~、このひよっこが~!」 何か優位に立った気がした。

少し気になって、パソで「オリオン」と検索してみた。WIKIの画面で、ギリシャ神話の歴史が書かれていたので、少しだけ読む。興味が浅いので、流し読みだが、トップ画面で俺は目を奪われた。

少し長いが、引用する。

「巨人オリオン(オリオン座)は海の神ポセイドンの子だった。大変に力のある猟師だったが乱暴で困ったので、大地母神ガイアがさそり(さそり座)を使い、毒針で刺し殺した。その後2名とも天にあげられ星座となった。オリオン座は冬の間、空高いところで威張っているが、さそり座が東の空から上るとこそこそと西の空に沈む。さそりは名高い狩人オリオンを一撃で刺し殺したくらいであるから、天にあがっても監視つきである。さそり座が天上で暴れた場合は、隣にいるケンタウルスのケイロン(いて座)が射殺すことになっている。」

俺は「いて座」だ。俺は、オリオン、さそりといった荒くれ者を射殺するほどの荒くれ者の星なのだ。極道 of  極道だ。強い星に生まれたのだ。何か気分が良くなった。ギリシャ神話も、なかなかセンスが良い。

今でこそ、天体の仕組みの鼻くそほどは解明されているので、星を見ても、びびらずに、せいぜい、俺みたいに、鼻くその優越感を覚えるだけであるが、昔の人は天体に浮かぶ光を見て、畏怖をはじめとする種々の思いを抱いただろう。星を見ること自体が、崇高な儀式であった気がする。

無知であることはいいことだ。そこに無数の想像力を働かすことが出来る。流れ星を見て劇的な何かを感じたり、毎日が楽しい。見飽きることない自然に対する目を、終生に渡って持続出来たであろうと思う。

それから考えると、今の俺たちが星に裸で対峙するためには、裸になるための想像力が必要になる。その時点で作為である。実際には無理である。悲しい。頭の良い先人が、個人的趣味で星を観察したならば、それでいいのだが、それを共有の知識として科学の土俵に上げたことには、正直、腹が立つ。

「何してくれるねん!」 1度得た知識を無にして思考するのは、知識を得ることよりも、数倍の労力を要する。そして、完璧に無の境地では想像出来ない。

星だけではない。もし、科学の萌芽もなかった時代を想像する。睡眠メカニズムがもちろんわかなかった時代である。伝統もなく、真っ暗闇の中、人々は眠りにつく。肉体労働のおかげで眠りは深い。人の寝姿を観察出来る様な、浅い眠りが無い時代である。

朝起きて、布団に相当する被り物が、上下左右逆さまになっていたならば、俺は周囲の人間から、「荘厳だ! 凄まじい魔力を秘めた方だ!」とか、「あ、あなたは、救世主だ!」とか言われたであろう。おまけに俺は、「いて座」だ。乱暴者を射殺する星に生まれた偉いさんだ。俺は周囲の尊敬を集める。
小さな村ならば、伝説の主になるだろう。 

色んなことを想像できる白紙の素地を汚していくのが、大人になるということだ。白紙を埋められた、さかしらの集合物を俺たちは常識という。俺もたくさん持っている。俺の素地には白い部分がだいぶ無くなっているような気がする。

素地が知識に色付けられていくことを、円熟というならば、円熟はいらない。さかしらな頭は視界をくもらせる。

話しが大げさになりそうなので止める。ただ、久しぶりに星をまじまじと見つめ、わずか5分の時間であったが、色々楽しく考えることが出来たことを嬉しく思った。オリオン君ありがとう。

俺は風邪をひかないように、オリオンの中央3匹の兵隊を見習って、布団を整列させることに、さかしらな頭脳を用いたい。夜が冷えてきた。あと一回眺めて寝よう。

0 件のコメント: