2008年1月23日水曜日

伝書烏賊

昨日のブログでも触れたが、俺の中高時代の渾名は、「スルメ」だった。良いのか悪いのかわからないが、学校中に広く認知されていた。3年間学び舎にいて、卒業する頃には、俺の苗字すらわからなくなるほど、渾名が認知されていた。学校の先生が校内放送で、渾名で呼び出すのだ。これはすごいと思う。

よく電話をかける友達の家に、たまに、本名で名乗りをあげると、しばらくは空気が固まり、「あ、スルメ君ね~、ちょっと待ってね」とつながれる。その時はなんとも思わなかったが、今から考えると、5人に1人は本名的に認知していたような気がしてならない。どこの親が、愛しの子に「スルメ」ってつけるねん! 少し悲しく感じた夜もあった気がする。

先生方からは、「こらスルメ」と言われ、同級生の男からは「スルメ」やら、「メルス」と呼ばれ、同級生の女の子からは「スルちゃん」と言われ、後輩からは「スルメ先輩」と呼ばれる。中高時代、俺の苗字を呼呼んだのは、補導された時とカツアゲされた時の対応をされたポリスメンだけだ。

このスルメ少年であるが、伝書鳩ならぬ、伝書烏賊になる機会を多く味わった。

俺の親友は、びっくりするくらい、もてまくっていた。先輩・後輩関係なく、彼を見る女子の目つきは、軒並み恍惚で、突き刺すような視線が彼に降り注いでいた。行動を一緒にしていた俺は、いつも彼の横を歩いていたのだが、俺の体の左右に結界が張り巡らされたかのように、その視線は俺には向かない。
なんともいえない、優劣の差を俺は親友に感じながらも俺たちは共に成長した。

俺も、当時は人並み以上にもてた。これはまじだ。恋文や、バレンな求愛は、毎年あった。しかし、俺の親友のもて方は尋常ではなかった。アイドル扱いである。

俺たちは中学に入学後、美しい先輩が多くいるからという理由で陸上部に入った。しかし、動機が動機だけに、不真面目極まりなく、俺たちは、いつも男子の先輩からリンチすれすれの虐待を受けた。
そんな俺たちの待遇を憐れに思って手を差し伸べてくれたのが、女神の先輩である。女神は3人いた。
聖母マリアを連想させる清らかな先輩、俺たちは彼女達の手厚い庇護を受けながら、傷持つ身にならずに、日々戯れた。「俺は聖母に守られている。」 幸せな勘違いがあった。守られていたのは親友だけだった。

3人の女神に混じって、1人魔女がいた。魔女というか、ポセイドンの香りを内包した、ガテンな方である。俺は彼女に砲丸投げに誘われ、練習中に間違って、彼女の砲丸を肩にぶつけられた。即死と紙一重である。ポセイドンの介護を俺が受けている間、俺の親友は、女神に短距離走を、手取り足取り教えてもらっていた。彼を見つめる俺のジェラ視線の隅には、当たったばかりの砲丸があった。歩く砲丸(ハルク・ホーガン)みたいなポセイドンに、俺はラリアット体制で抱えあげられた。 

俺たちは2年生になった。可愛い後輩が入ってきた。俺たちは目をつけ、彼女達の前で、渾身のギャグをかましていた。ある日、俺が昼休みに便所に行くと、便所周辺で、その後輩がたむろして、俺を見るなり様子を変えた。

「きたで~きたで~、求愛タイムが!!! しゃあない、傷つけんように相手したろ?」 
俺は、ロボットみたいな動きを悟られないように、そして、大便器入りの予定を変更し、鏡を見て鼻毛チェックだけをして、予期される小水タイムだけを便所内で過ごし、さりげなく出た。

「スルメ先輩~。 こ、これ・・・」   紛れもない文だ。封筒だ。クッキーらしきブツも添えてある。

「お~う、どうしたん? え、何?? これ~???」   俺は昇天寸前である。

「あの~、O先輩に、これ渡してもらえませんか?」       

昇華した。消えた。俺は、浮遊物となって、元来の便意を解消しに、個室に入った。気張る2足が震えていた。しかし、俺は伝書烏賊としての役割を果たした。

3年生になった時、俺は、2年生の時から好きだった女の子と、同じクラスになった。猛烈なラブビームを彼女に毎日送り、よく話し、どう考えても、彼女は俺に好意を抱いている気がした。春は間近だ!

ある放課後、校門前に彼女がいた。その日、俺の親友は、テニス部の女の子に付きまとわれて、彼はその中で、ホスト的なお勤めをしていた。俺は、別の友人と帰路につこうとしていたのだ。

近眼になり始めた俺の目ではあったが、俺は、ホの字の女の子が校門前に立っていることは、渡り廊下を歩く時から知っていた。そして、彼女の待ち伏せが何を意味しているかも・・・。

「愛のプレリュードは終わった! 今から唄が始まる・・。いきなりサビかあ????」 俺のボルテージは最高だ。頭で、マクロスの主題歌の飯島なんとかって人のサビがなった。「覚えてい~ま~す~か?・・・」 

彼女は、俺が近づくと、頬を染め、横にいる友人に促されるように、俺の方に来た。受け止める側の体制は完璧である。完璧すぎて、動きはマクロスである。

「スルメ君、じつは~~、 これ!」  紛れもない文だ。薄紅色の封筒の表に、綺麗な字がしたためてある。時は夕暮れ、俺の鼓動は・・・・。

宛名は、O君だった。またしても、奴だ! 俺の親友だ。 頭のBGMが変わる。「か~ら~す~と~いいっ~~しょ~にか~え~り~ま~しょ~~~~~う・・・・・」

ハイ、帰ります。大事に届けます。あの人の下へ・・・・。  俺の鼓動は夕刻を終えた。漆黒の闇だ。

俺の親友は、俺の初恋の人から、俺を通して求愛され、その後、二股で彼女をふった。俺は、彼の頬をぶった。

「俺はつらかったけれど、精一杯、彼女の気持ちをお前に伝えた。俺が好きな人がお前を好きになったことを、俺は心から祝福していた。それなのに、それなのに・・・、この烏賊の気持ちが分かるか???」

涙はしょっぱい。烏賊くさかった。しかし、青春の味だ。

今でも、親友と飲むと、この時の話題になる。彼は、「もう、あんなことはスルメ~!」と、ほっこり言う。
俺は、「イカんともしがたいことだったけど、伝書する幸せも感じた、イカす思い出だったことよ。」と返す。つまみは、もちろん、イカの刺身と乾き物だ。粋が良くていかす。

こんな俺たちも、いまじゃ30代後半、そして、あの時の、女神や、ポセイドンは今どうしているかは知らない。
共に、多感な年頃を彼と同じ場所で過ごせたことを嬉しく思う。彼はもてもて男として、将軍のような日々を、俺は伝書烏賊として、塩辛い日々を・・・・。 立場は違えど、過ごした日々は、噛めば噛むほど味がある。

彼は来月16日、北の将軍様の生まれた日に、誕生日を迎える。伝書はもういらない。俺は烏賊としての役目を終える。また飲み交わす日を楽しみにしている。烏賊キムチでイカが?

2 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

親友とのステキな思い出は特にございませんが、私も中学生のときからずっとあられです。

電話のエピソード、苗字では誰か認識されず‥あぁ、あられちゃんね!っていうの、私もありましたわ

ついでに、年賀状で「鈴木あられ様」ってのが届いたこともありましたよ、、なつかし!

管理猿まえけん さんのコメント...

あられちゃんも中学からのお付き合いや~(笑) 年賀状は、本気度満点やね。でも、語感的に、スルメよりはあられを羨ましく思います(笑)。なつかしいね~。