2008年1月29日火曜日

夜更かしについて考える

最近は、2時半から3時くらいに寝ることが多い。朝は、嫁が仕事に出かける準備をしている物音を聞きながら、まどろみ、10時くらいまで寝ている。田舎のホストみたいな生活だ。

俺は元来、早寝早起きのタイプだ。丑三つの刻まで起きているのが、昔は怖くて、日付をまたぐ前に寝ることが多かった。しかし、塾稼業についてからは、自然、寝るのが遅くなる。都会のど真ん中と違い、夜は幸いにして静かであるので、読書や思考の時間には適している。最近は、丑の刻をまたぐことに対する怖さはなくなっている。

小学6年生まで俺は、大晦日でも、紅白歌合戦が終わる頃には寝ていた。中1の時まで、ミッドナイトを体感していなかったのだ。小学校高学年でも、「8時だよ全員集合」が終わると、寝床に入っていた。
夜は、早く眠りに落ちないと、何か怖いものが起こるような気がしていたのだ。急かされるように、日付をまたぐ前に意識を眠りの中に誘わないと、怖かったのだ。

俺が幼稚園のときぐらいだろうか、俺のおかんは、夜になると興奮してはしゃぎだす俺を寝かせるために、モンスターを作り出した。そのモンスターは、夜遅くまで起きている子供を見つけては、連れ去って食べるというのだ。防ぐ術は1つだけ。早く寝ることである。どうしても眠れない時でも、寝床にいれば救済措置があるそうだ。

その化け物の名は、「モーネロ!」だった。俺はカタカナかひらがなで認識していたが、今から考えると「もう寝ろ!」だ。親から子への命令形だ。なめとんか!

それが、語彙の乏しい俺には、ムーミンみたいな形のスライム状のお化けに思えた。とても怖かった。
俺がはしゃいでいたり、ドリフターズのギャグに反応して、興奮しまくっていると、おかんは、「あ、もう、そろそろやわ。来るで! 来るで!・・・」と脅しだす。俺は、「言わんといて! もう寝るから」と、大慌てで化け物の名を呼ばせないようにして、布団にかけこんだ。不思議と、すぐに眠れた。恐怖認識に合わせて体内リズムが反応していたのである。

我が家では、クリスマス幻想は、小学1年の時には絶たれた一方で、化け物幻想が見事に子供を支配していた。それにしても、ネーミングセンスはベタだ。ひねりも工夫もない。騙された俺が悪いが、え~加減にせえよ、おかん!

この記憶がトラウマになっていたのだろうか。高校生の時に、初めて丑三つ時まで起きていた時は、何か未踏の地に踏み込んだかのような怖さと、興奮を覚えたものだ。K点声というか、人生の中で初めてのヴィジョンを感じたものだ。

踏みしめてはいけない境地に入るやましさがある一方で、その時間に起きている自分が、何か立派な気もして、俺は夜更かしに、興奮した。ラジオを聴いたり、ヘビーメタルを聴いたりしていた。徐々に俺にとっての夜更かしは媚薬に似たものになった。「平凡パンチ」、「GORO」、「スコラ」といった、今から思えば何でもない微ポルノ雑誌を読むのが、ミッドナイトになった。モーネロに対する恐怖に打ち勝つ根底思想は、セクシャルな願望だったのだ。パンドラ気分で開けた扉に、俺は希望だけを残した。まいったか、モーネロ!

俺の中での、モーネロ幻想は終わっていたかに思えたのだが、まだ生きていた。

今日、高校受験生の生徒に、おっさんなりのアドバイスを与えた。「今から受験までは、そろそろ朝方に変えていかなあかんで! どんなに遅くても、日付変わるまでには寝ろ! そして、朝早く、起きおし!」と俺はアドバイスした。

「日付変わるまでって、ありえん~~~~!小学生みたいや~~! 無理無理!」と、ほざくガキ共に、俺は素で、一喝した。

「どあほ! 早く寝んと、モーネロが出て、あんたら食われるぞ!   あん? 」

空気が変わった。滑った。受験生には不吉なくらいの大滑走だ。人生最大の滑りかただった。それでも俺は、滑った後の修正をなんとかしながら、ガキ共に、早く寝る約束をさせた。幸いに、滑った雰囲気は一掃された。

そこで、よせばよいのに、また、やってしまった。
「まじで、約束してや! 指きりげんまん、嘘ついたら、モーネロで~ます! 」

雪崩が起きた。1日に、ワースト1、2を更新したのだ。俺は、不貞寝したくなった。

モーネロは俺を今でも支配している。奴がかもし出す恐怖は、夜更かしの恐怖から、滑走の恐怖に変わりつつある。モウイウナ。 カタカナの語感は暖かみがない。もう寝る。

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