2008年5月4日日曜日

893の薫り

GWだというのに、家でごろごろ、読書したり、音楽聴いたり・・・。富山に移住してからというもの、GWになったら俺は、糸の切れた凧のようにお出かけしていたものだが、昨年からインドアになりつつある。

GWに暴走する凧になっていたのには、もちろんチープハンズのライブがGWに組まれていることが多かったこともあるが、それだけではない。バンドライブの数日前から関西に乗り込み、893事務所があるところ、荒んだところ、日の当たらない場所を中心に散策を続けてきたものだ。

まとまった余暇の多くは、俺の飽くこと無き散策時間に多く費やされた。そのエナジーの根源はわからない。

俺は893に惹かれるのだ。893の個人と交流を持ちたいというわけではない。愛情の形はいろいろあるが、俺は893の醸し出す雰囲気に何だかメロメロなのだ。

893といっても色々いる。スーツ組中心の経済的勝ち組、がてんな労働者組、痩せ型派出めのヒモ組、構成員見習いのチンピラ組、真の侠道見習い過程の丸坊主組、思想的過激者の右翼組・・・、どれも見てみたい(笑)

東京、大阪、京都、名古屋、北陸、色んな場所で組事務所を探索してきた。組事務所は名簿があるわけではない。でも俺の嗅覚が教えてくれる。不思議と遭遇できる。ほとんどの人が言われないと気づかない組事務所であるが、俺は空気の圧力と視覚と嗅覚ですぐに察知できる。この能力を何かに使えないものか?

バブルがはじけたころ、京都の再開発に携わっていた人たちの1人の893と、工場の労働で一緒になったことがある。いかつい目つきとは裏腹に、実に温厚な人で、俺に色んな話しをしてくれた。バブル崩壊を機に、893な稼業から身を引き、堅実なビジネスをするために、工場労働で金をためると言っていた。過去の話も少しは教えてくれたのだが、1日で転がしたお金でフェラーリを買ったとか、最初は本当かな?とも思っていた。

ある日、土砂降りの日、仕事帰りに彼は俺をアパートまで送ってくれた。ちょうどその日の仕事が終わる寸前、彼は理不尽にがなりたてる班長に注意され、彼の胸倉を掴んで周囲から止められていた。それまでずっと、勤務態度も真面目で、言葉遣いもしっかりしていた彼が、理不尽な注意に関して強烈な豹変を見せた。何だか小ばかにしたような発言を受けた後での出来事だ。俺自身も班長の言動の方に非を感じた。

切れ方は尋常ではなかった。静の恐怖というか、声を上げるわけでもなく、ただ無言で胸倉を掴んで持ち上げ、工作機械の壁に班長をぶつけた。目で何かを訴えるだけだった。

俺は彼の醸し出す雰囲気に圧倒された。彼の心の中には深い憎しみの塊と悲しみの塊があって、それが粉砕される時は永遠に来ないような気がした。彼が家まで送ってくれるという申し出を、俺は厳粛に受け止めた。

車はクラウンのフルスモークで、過去の名残を感じさせた。「お前、英語出きるんやったら、いつかビジネスに参加せんか? もし気が向いたら、ここに電話してこい。」といって名刺をくれた。某有名893組織の枝の名前と彼の名前が毛書体で刻印されていた。

次の日から彼は当然のごとく仕事に来なかった。俺も次の日に辞めた。彼に電話をするつもりだったわけではない。むしろ、彼と二度と接点を持ちたくない気持ちからの仕事放棄だったと思う。

中学生時代の修学旅行などの班でいつも一緒に行動していた奴も、後に893になった。虚勢を張る、実に安っぽい893になっていたが、彼の目にも何だか得たいの知れない憎しみの塊と悲しみの塊があった。

893の目つきの奥に、憎しみと悲しみの塊を見出して、奴らを美化する気はない。それにそんな瞳を持つ奴ばかりではない。893を肯定する理由なんかこれっぽっちもない。893の個人個人は嫌いで嫌いでたまらない。

ただ、同じ人間がどうして893になるのかということに関しては、深い興味を抱かずにはおれない。生まれながらに893になる為に生まれてきた奴はいない。893は本質的には、団体ではなく精神のカテゴリーだ。「利口でなれず、馬鹿でもなれず、中途半端でなおなれず」という言葉があるが、本来、誰も成りようがないものであるはずだ。

それにも関わらず、893集団に身を置く生き方を自ら選ぶというより、選ばざるを得ない精神を持って生まれた人たちが、893の集まりである組に身を寄せるのだと思う。彼らの精神を後押しするものは何なのだ? 

893集団を選んで、そこに身を置く人たちは憎しみ以外の対象にはならないが、893ひとりひとりの幼少からの生い立ちにはすごく興味がある。感情を持っていることさえも忘れた生き物の集う場所、そこには悲しみと憎しみの火種を感じる。なぜかそれにひかれる。

GWは人が多くて出歩かなかったが、また平日休みを見つけて、893街を散策しようと思う。定期的に嗅ぐべき匂いではないかもしれないが、893のいる場所には、退廃した人間の邪悪な部分の香りがある。たまには嗅ぐべき匂いのような気もする。

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