2008年5月15日木曜日

郷土を知ること

平成18年度から富山県では官民が一体となって、郷土のことを良く知るためのキャンペーンとして、「越中富山ふるさとチャレンジ」なる検定試験が行われるようになった。郷土の歴史認識や観光PRも狙って、京都や金沢などでも同種の検定が行われているみたいで、全国的なムーブメントとなっている部分があるかもしれない。

受験料2000円を払って、大学キャンパスなどの数会場で試験が行われて、70%以上の正解率で認定証が贈られるらしい。

俺は受けたことはないのだが、公式問題集が県内書店のレジ周りに置いてあるので、買って読んでみたことがある。本年度版も出ているみたいだが、俺が買ったのは初版だ。

富山に来て14年目を迎える俺は、ずっと富山で育った人よりも県内のことについては詳しいと思っている。外部から来た人間の方が、富山県の素晴らしいハードを満喫できる素地はあると思う。休みごとにあちこち出かけては、先入観無しで県内散策をくり返してきた。

大阪に住んでいた時から、富山県は俺が観光したい場所の上位だった。立山・黒部アルペンルートはもちろんのこと、氷見や新湊などの海沿いの町、五箇山の合掌集落、朝日町のひすい海岸などは、富山に移住する前から知っていた。

そして富山に住んでからというもの、全国的にメジャーな観光地はもちろん、マイナーな史跡などもくまなく散策した。毎回の休日の過ごし方としては尽きることない魅力を、わが県は秘めていると思う。

ところが、富山県で生まれ育ち、一度も県外で生活したことがない人たちは、意外と自分たちの住む県の素晴らしさを認識していないように思う。身近に素晴らしい場所がたくさんあるにも関わらず、パック旅行で都会に出かけては疲れて帰ってくる。都会への憧れを丸出しにして、都会の喧騒を体感して初めて、自然に満ちたわが県の素晴らしさを知る高齢者が多い。彼らにとっての都会へのパック旅行は、自分たちの郷土の良さを再確認するための認識ツールとなっている気がする。

都会に憧れる田舎者根性丸出しの人とは対照的に、自然嗜好の高い富山在住者は、田舎めがけたパック旅行を選択する。山形、福島、長野、岐阜・・・。俺もパック旅行ではなく自家用車で、これらの土地に色々行ったが、細かな部分でその土地土地の風土の違いが感じられて有益で楽しい旅だった。

しかし、パック旅行で訪れた場合はどうだろうか? 添乗員アルバイトで色々な所を回ったが、どれもこれも均一化されたモダンな旅館と、均一化された史跡が多く、それぞれの土地の素晴らしさを1番味わえるのは車窓からの景色であったように思う。

つまりだ、あんまり遠くに行かなくても、同種の佇まいを見せる史跡や施設は、身近な所にもたくさんあるのだ。もっともっと身近なところにある素晴らしさを再確認し、見落としている素晴らしき佇まいを十分に味わっていくべきではないかと思う。

そういった意味で、冒頭のようなキャンペーンは有益で、なかなか楽しい取り組みだと思う。検定に合格し認定されたからといって、何かの仕事にありつけるわけでもなければ、履歴書に記すほどの資格でもない。特定のメリットばかりに目が行く資格や検定であるが、郷土検定みたいなものに真面目に取り組むのも悪くはないと思った。当面、日程的都合で受けることはないが、本をくまなく読み返しては、富山に対する造詣を深め、郷土の史跡をより深く味わえるだけの素地を作りたいと思う。

この公式問題集、中には、「なめとんか!」という突っ込みどころもたくさんで面白い。
例えば、「田中耕一さんがノーベル賞を受賞した研究とは?」という設問の4選択肢の中には、カーナビ、液晶テレビ、プラズマテレビというものがある。設問を考えた人はテレビ画面にまつわるものしか思いつかなかったのだろうが、ちょっとしょぼい。

そうかと思えば、なかなか味わいある設問もある。「作家・歌人の辺見じゅんが新田次郎文学賞を受賞した作品は?」というものだ。選択肢が素晴らしい。①女たちの大和、②男たちの大和、③戦艦大和の最期、④戦艦大和の祈り。

映画を知っている人ならば、すぐに②の正答が出るであろうが、知らない場合は、どれもありそうなタイトルだ。

① は「女」という言葉と「大和」という言葉の持つ対義的にも同義的にも取れるニュアンスが面白いと思う。大和に乗り込むために旅立つ夫を見送る女のエレジーだ。演歌が良く似合う。

③は硬質な文字の羅列と、「最期」という言葉の響きが荘厳で、右翼が好みそうなタイトルだ。「最期」は美化されて荘厳な終わりを演出するだろう。軍歌が良く似合う。

④は、戦艦大和というばりばりの和の響きと、祈りという西洋的、女性的な響きがこれまた素晴らしい。戦艦大和は、愚かな戦争を自ら終結させるために大海に出ていった、といったストーリーを想像させる。レクイエムがよく似合う。

正解の②は、これまた右翼チックだが、1番安っぽいタイトルに落ち着いた気がする。
長渕がよく似合う。クローズ・ユア・アイズと命令されたくはないし、瞳閉じなくても想像できる物語だ。角川書店のカラーを感じるタイトルで、設問の誤答の方が、まだ良い気がする。

上記のような郷土出身者にまつわる問題は一部であり、多くは歴史、経済、祭りなどの造詣深い問題だ。余暇に「つま~っと(注:富山弁で、「ゆっくりと」を表す副詞)」見てみるのも面白い。そして造詣深めて近場を改めて散策したい。

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