2008年5月29日木曜日

お菓子

最近、生徒が食べているお菓子を見るにつけ、すごく妬み心が出る。羨ましさと悔しさを禁じえない。なぜなら彼、彼女たちが食べているお菓子が、高級で渋いからだ。

グミやスナック菓子を食べているのは許せる。しかし、高級チョコレートを遠足などのハレの日でもないのに食べているのに、少しぴくぴくする。

梅ねり、わかめ、中野の昆布、袋入りの高級和菓子なんかを食べているのを見ると、「おっさんか!」と突っ込み入れて、怒りは最高潮になる。これらは、お菓子道上級者が食すものであり、じゃりん子が食べるものでは断じてない。

おまけに、1度侮辱されたことがある。俺が「ムーンライト」という高級お菓子を見せつけるように食べていたら、キッズが俺に、「ムーンライトは口の中でもごもごするから、あんまり好きじゃないんだよね、ゴーフルなら好きだけど」とぬかしやがった。

「源氏パイ」を食べていた時も、「パイはやっぱり浜松のうなぎパイが一番ですよ」と言いやがった。この無念・・・・、貝柱で満たした。おつまみを食すことで、俺は大人の優越感を保った。

幼少時代、俺はお菓子に飢えていた。おかんがスーパーから帰ってくると、袋をすぐにあさり、おかんの目を盗んではお菓子を引き抜いた。かっぱらい状態だ。
兄貴や弟の目に触れる前に俺は全部食した。

おとんが、梅酒を作るために買ってきた氷砂糖が2袋あった。俺は夜通し1袋食べた。虫歯を恐れていては、お菓子道は究められない。噛んで舐めて、ひたすら血糖値を挙げた。

俺のお菓子強奪は、わが家で問題になった。おかんはお菓子を隠すことにエネルギーを費やし、おとんは氷砂糖は梅酒を作る直前に買うようにした。

俺は負けなかった。おかんが新しい隠し場を見つけた日に、アジトを見つけ、襲撃した。それは、米びつを前にした襲撃事件にまで及んだ。

どうせ屋外に隠すことはない。どこにいても俺の公安魂が、アジト発見を助けた。

しばらくたって、おかんが兄貴と弟と会話している声が耳に入った。兄貴と弟は、俺がお菓子を食すもんだから、自分たちが食べられないことをクレームしたようだ。おかんは答えていた。「おかあさんも難儀してるんやで。ほんまあいつはゴキブリみたいやな~。」

Pardon me?  ゴ・キ・ブ・リ???

色んな親子関係があるが、おかんにゴキブリを冠された息子はいないだろう? 俺はどうせゴキブリなら、ゴキブリ道を極めようと思った。

九州のおばあちゃんの家に一人旅することがあった。おかんがお土産を持たしてくれた。
船の一人旅で、小学生高学年時代の出来事だ。

深夜の二等船室、眠たいわけがない。ゴキブリは暗闇に動き出す。俺は腹が減ってきた。
追いはぎするほどの悪人でもない。人様のお菓子に手をつけるほど、ゴキブリとしての完成度はなかった。俺はわが荷物を見回した。持たしてもらった350円分の道中用のお菓子は、南港に着くまでの電車内でたいらげた。

あった!! お土産だ。 生八橋24個入りが2箱あった。

ゴキブリ迷わない! 人目も気にせず俺は1箱を船中で食べた。そしてもう1箱を、おばあちゃん家に着くまでの電車とバス内で食べた。

着いた。おばあちゃんが作ってくれた料理は田舎くさい上に、お菓子で腹が一杯で食べられなかった。しかし、めったに飲めないサイダーを3本おねだりし、一気飲みした。

その夜吐いた。夜もすがら洗面器を枕元に置いては、おばあちゃんに看病させた。ゴキブリの満腹中枢は壊れていたが、内臓は正常だった。吐いて吐いて・・・。

次の日からお菓子が嫌いになった。以前なら涎たらしていた仏前のお下がり菓子にも見向きしなかった。

帰るとき、おばあちゃんがお土産を持たしてくれた。九州名物「ひよこ饅頭」だった。

饅頭こわくはない。その時にはゴキブリはゾンビと化して復帰していた。

帰りの船中で完食した。

家に帰って、また吐いた。こっぴどく叱られた。おかんはそれ以来、お菓子を兄貴と弟に手渡しし、俺には少量しか与えてくれなくなった。

俺はお菓子を自分で作ることにした。クッキーを10人分ぐらい作った。クッキーといっても、材料がふんだんにあるわけではなくて、小麦粉焼きみたいなものだった。砂糖をふって食べた。おかんはほめてくれた。

家中の片栗粉を使って、わらび餅を土鍋いっぱいに作った。最初ほめていたおかんは布団たたきで俺のお尻をぶった。

幼少時、「大人になったら、毎日お菓子を買ってやる! マクドのポテトをランドセル一杯ぐらい食べてやる!」と思っていた。そのエネルギーを胸に今に至る。

こんな思いを抱いていた俺のお菓子にまつわるゴキブリ精神を、今のキッズはいざ知らず、上級者向けのお菓子をパクパク食べやがる。

でも、時々くれる。迷わずもらう。素直にうれしい。「おかわり」することもある。拒否されることもある。妬み心は服従心にすぐに変わることもあれば、対抗心に変わることもある。おかわりに失敗したら、帰り道のコンビニで、そのお菓子を2袋買う。

買って帰って食べたら美味しくなかったりする。ゴキブリの本懐は、人のお菓子にだけ向けられていたのかもしれない。

今日も夜の台所を徘徊しよう。

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