2008年3月1日土曜日

「名盤探検隊」

スティーブン・スティルスの「マナサス」を聴く。LP4枚構成が一枚にパッケージされたCDだ。贅沢すぎる音源の発売元はワーナーだ。「名盤探検隊」シリーズだ。

ワーナーが20世紀末に出した薄茶色ラベルの復刻シリーズ「名盤探検隊」シリーズは、当時の俺の中で衝撃だった。音楽的な造詣が浅い俺は、京都のある御仁から教えて頂いたジェシ・デイヴィスと知り合ったことがきっかけで、ジェシさんとの出会いから「名盤探検隊」シリーズに巡りあった。

エリック・カズ、ポール・ウイリアムス、ジョー・ママ、グラム・パーソンズ、フィフス・アヴェニュー・バンドと買い進めていくうちに、「名盤探検隊」の帯を冠したものを買えば、俺の好きな趣味に合うことがわかり、とにかく金が出来れば探しに行った。金銭的な余裕の問題で後回しにしていたものの一部は姿を消し、今でも残っているものは、持っているものばかりだ。売り上げ上位ラインナップがまた再発されているが、ジェシさんやエリックさんであり、再発されない中には結構まだまだ聞き損ねているものがある。悔しいから中古市場を今日も覗く。

CDを探すとき、安心の背ラベルというものがある。自分が好きで繰り返し聞いた洋盤と同じ背表紙を羽織ったものには自然と興味がいくし、そのラベルとジャケを参考に、知らないミュージシャンを辿ってきたのが俺の音楽リスナーの歴史であると思う。

中高生時代、歌謡曲とヘビーメタルしか聞かなかった俺にとって、大学入学以降、新たに出会った音楽は衝撃的だった。リアルタイムでもなければ、辿る過程は王道でもない。ジャンル区分なんてものはなく、ひたすら先輩や友人から聞かされる音楽、「拾得」、「磔磔」でかかる音楽を中心に辿ってきた。

今に至るまでたくさんの音楽を聴いてきたが、頼れるラベル「名盤探検隊」は、そのダサいタイトルとは裏腹に、文字通り名盤チョイスがなされたシリーズだ。ワーナーのこのシリーズの企画者に敬意と感謝を表したい。

「名盤」をどのアルバムに冠するかは、個人的な嗜好の問題だが、普遍的に名盤というものがある。ビートルズの全アルバムはもちろんのこと、好き嫌いを別にして、その音の素晴らしさに圧倒される音楽というものがたくさんある。

しかしだ、俺の個人的な嗜好での名盤はやはり、1960年代から1980年代までに多い。この事実は、一生の間に出会える名盤との出会いが、あまりに狭いことを意味している。今流通している音楽で、後に復刻されるような名盤を聞き逃していることはもちろんのこと、20世紀の音楽でもおそろしく小さな世界でしか聴く機会を持っていない。悲しい現実だ。

限られた生涯の時間の中、そしてその中で音楽を聴く時間のトータルの中で、1つでも多くの自分にとっての名盤にめぐり合いたい。そのためには、やはりヒントとなるラベルが必要だ。自分の興奮のツボに完全にマッチしたラベルはないであろうし、あったとしても、そこにラインナップをしていない音楽と知り合う機会を逸する契機となるデメリットも含んでいるが、やはりラベルは助かる。

「レココレ」、「ミュージックマガジン」など、盤評論の雑誌をあまり熱心に読まない俺は、やはりラベルとジャケが頼りだ。音楽雑誌の評論は、確かに的確な面もあるが、どうしても文面で判断できないものがある。それにだ、信頼できる音楽雑誌に載っている音源を全て網羅できるだけの金銭的余裕と時間的余裕が無い中で、しっかり聴きこんでもいないものに、活字レベルの知識を音源に対して持ちたくない。

音楽との出会いは不思議だ。リアルタイムで興奮を覚える音楽、後から辿って興奮する音楽、色々だが、どれもが千差万別であり、聴く人の数だけ聴き方がある。冒頭の「マナサス」にしても、これを当時LP2枚組みの4部構成で聴いた人と、デジタルリマスタリングされたものを数十年後にCDで聴く者との違いは、世相や個人的体感も含めて異なるだろう。

アナログ版とデジタル盤を聴き比べたりすることをしたことがないので、デジタルリマスタリングがどれほどの興奮もしくは失望を往年のリアルタイムリスナーに抱かせるのかはわからないが、俺にとっては、過去の音源であれ、出会った時がリアルタイムの音楽だ。そこに音響の差を鑑賞する気概もない。聴こえる音だけが全てである。

自分にとっての名盤は、今流通している音楽、または、流通していない音楽にでもたくさんあるのだろうと思うと、名盤との運命の出会いを渇望して、人の一生の時間の短さといった、世のはかなさを感じずにはおれない。知らない音源と色々知り合う機会を増やさなくてはならないな~。

そう言いながら今日も「名盤探検隊」とニールヤングをデッキに載せる。ニール翁の最近のお気に入りは「Hawks & Doves」だ。デジタル処理されていようが、デジタルがアナログに負けている名盤だ。

絶対的な総時間数に中で、あれもこれも探していても仕方がない。出会うべくして出あい、知り合うべくして知り合った音源を大切に、今日も耳から脳へ、そして心の琴線を鳴らしたい。

0 件のコメント: